らどんなほんとうの顔があらわれるか……」
「ああ、それはゆるしてくれ、マスクのことを知られては仕方がないが、私はおしまいまでこのマスクでいたいのだ。素顔を誰にも見られたくない」
「いまになって、なにをいう。指揮権はみなこっちへもらったはずだ。なにをやろうと、君は命令にしたがいさえすればいい」
「ま、待ってくれ。こんなところで、私にはじをかかせるな。時節が来れば、きっとマスクをはずすから、しばらく待て」
「うむ、わかった」
 帆村はこのとき大きくうなずきました。
「どうした帆村君、なにがわかったのか」
 小浜兵曹長が、聞きました。
「いや小浜さん、このマスクの下にあるほんとうの顔が、それがわかったというのです」
「え、それはなんのことだ」
「つまり、怪塔王のマスクの下には、僕たちのよく知っている顔がある、ということなんです」

     4

 帆村探偵は、怪塔王のマスクの下に、知っている人の顔があるといいます。
 小浜兵曹長は、おどろいて、
「それは誰の顔だ」
「それは――」
 と帆村は、おもわず興奮に顔を赤くし、怪塔王を指さしながら、
「それは外でもありません、この下に大利根博士の顔があるのです」
「大利根博士といえば、塩田大尉がよくいっていられた国宝的科学者のことかね。大利根博士が怪塔王に化けているというのかね。いや、俺には、なんだかさっぱりわからないよ」
「いや、大利根博士だから、僕たちの前でマスクをとられたくないのですよ。どうだ図星だろう、怪塔王!」
 と帆村は、怪塔王の顔に指をさしました。
「いや、私は大利根博士ではない」
 怪塔王がいいました。
「博士ではないというのか、いや博士にちがいない。とにかくマスクをとるんだ。命令だから、マスクをはずせ!」
「やむを得ん。ではマスクをはずすぞ」
 どうしたものか、怪塔王は案外すなおに帆村のいうことを聞きました。そして、彼は両手を顔にかけました。
 そのとき、警報ベルがけたたましく鳴りだしました。
「あ、怪塔王、あれは何だ」
「ロケット隊からの戦況報告だ。ちょっと私を送話器のところへ出してくれ」
「いや、いかん! うごけば、殺人光線灯をかけるぞ」
 小浜兵曹長はどなりました。
「おい、マスクを早くとらんか」
 と、これは帆村の声です。
 そのとき警報ベルが鳴りやむと同時に、高声器から、戦闘中のロケット隊長からの声が出てきました。怪塔王の眼は、異様にかがやきました。

     5

 高声機の中からは、戦闘中のロケット隊長から怪塔王あてにかかって来た戦況報告がひびいて来ました。
「首領、わが怪塔ロケット隊は、おもいがけない負戦《まけいくさ》に、一同の士気はさっぱりふるいません」
「なんだ、負戦? そんなことがあろうはずはない。磁力砲でもってどんどんやっつければいいではないか」
 と、怪塔王はおもわず叫びました。
「ところが、首領、その磁力砲が一向役にたたないのです。磁力砲を日本艦隊や飛行機にむけてうちだしますと、向こうは平気でいるのです。そして、磁力砲をうったこっちが、あべこべに真赤な焼《や》け鉄《がね》をおしつけられたように、急に機体が熱くなって、ぶすぶすと燃えだすさわぎです。どうも変です」
「磁力砲をうったこっちが、あべこべに燃えだすというのか。はて、それはふしぎだ」
 怪塔王はあらあらしい息づかいをして、無念のおもいいれです。帆村探偵と小浜兵曹長とは、この様子をさっきからじっと見まもっていました。敵のロケット隊長の戦況報告によれば、わが秘密艦隊はこのところたいへん優勢であります。怪塔王と戦っている二人にとって、これくらい嬉《うれ》しく、そして力づよいことはありません。
「あっ、そうか」と、怪塔王はこの時何をおもいだしたか、つよく手をうち、「おい、隊長、向こうは、わしが秘密にしておいたあべこべ砲を持ちだしたらしい。艦隊や飛行機はいつの間にか、みなあべこべ砲をつけているのだ。だから、こっちから磁力砲をうつのはすぐやめにしろ。うつだけ損だ。損ばかりではない。自分でうったものが、自分にかえって来て、ロケットや乗組員を焼くのだ。あぶないあぶない。お前は、すぐロケット隊全部に引上《ひきあげ》を命じなさい」
 怪塔王は夢中になって、マイクの中に命令をふきこみました。
「首領、引上げてこいとおっしゃっても、もうそれは遅いのです」
 隊長の声は半分泣いていました。

     6

「もう遅いって、どうしてもう遅いのか」
 怪塔王は敗戦のロケット隊長をしかるように、もう遅いわけを聞きかえしました。
「はあ、そのわけは、わがロケットの損害があまりに大きくて――首領、どうも申訳《もうしわけ》がありません」
「おい、はっきりいえ。わがロケットの損害は、どのくらいか」
「はい。まことに申し上げに
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