王にさとられ、ついに行けませんでした。
 しかし、こんど彼はとうとう兵曹長をうまくすくいだしました。そして怪塔内のモーターを焼切ったりなどして、怪塔王をすっかり閉口させています。
 さてその帆村探偵と小浜兵曹長は、いまどこにかくれているのでしょうか。
 ちょうどそのとき、怪塔王と黒人とが、大困りで顔と顔とを見合わせているうしろで、ことりと音がしました。


   二勇士



     1

 怪塔王と黒人の立っているうしろで、ことりと物音!
 怪塔王は、それを聞きのがしませんでした。
「何者か?」
 と、うしろをふりかえった怪塔王の眼にうつったものは、何であったでしょう。それは外ならぬ帆村探偵と小浜兵曹長の二人の雄姿でありました。
「うごくな、怪塔王!」
「降参しろ! うごけば命がないぞ」
「なにを!」
 怪塔王は、いかりの色もものすごく、とつぜんにあらわれた二勇士へ叫びかえしましたが、何を見たか、
「あっ、それはいかん。あぶない。ちょっと待ってくれ」
 と、俄《にわか》に怪塔王はうろたえ、ぶるぶるふるえ出しました。
「あははは。これがそんなに恐しいか。だが、これは貴様がつくったものではないか」
 小浜兵曹長はあざ笑いました。彼がいま小脇にかかえて、怪塔王に向けているのは、怪塔王秘蔵の殺人光線灯でありました。この殺人光線灯は、かねて帆村がその在所《ありか》をさがしておいたものです。このたびはこっちが失敬して、逆に怪塔王の胸にさしつけたというわけです。
 ピストルも小銃も、一向に恐しくない怪塔王ではありましたが、この殺人光線灯を見ると、まるで人間がかわったように、ぶるぶるふるえだしました。それもそのはず、殺人光線灯がどんなに恐しいものであるかは、それをこしらえた怪塔王が一番よく知っているわけですから。
 怪塔王は、(困ったなあ。たいへんなものを、盗まれてしまった!)と、歯ぎしりをしましたが、もう間にあいません。
 小浜兵曹長は、ゆだんなく殺人光線灯の狙《ねらい》を怪塔王の胸につけ、もしもうごいたら、そのときは引金をすぐ引くぞというような顔をしています。
「そこで、怪塔王どの」
 帆村は、横の方から怪塔王のそばに一歩近づきました。

     2

「そこで怪塔王どの」
 と帆村に呼びかけられ、怪塔王は額ごしにおそろしい目をぎょろりとうごかし、
「なんだ、帆村。お前たちは卑怯じゃないか。わしの大事にしていた殺人光線灯を盗んで、わしをおびやかすなんて、風上にもおけぬ卑怯な奴じゃ」
「こら、何をいう」
 と小浜兵曹長はおこっていいました。
「卑怯とは、どっちのことだ。貴様こそ、卑怯なことや悪いことをかずかずやっているじゃないか。中でもあの勇敢な青江三空曹を殺した罪をおぼえているか。あれは貴様のような卑怯者に殺させてはならない尽忠の勇士だったのだ。それにひきかえ、貴様が自分の殺人光線灯で死ぬのは、それこそ自業自得だ」
「ま、待て。撃つのはちょっと待ってくれ。その代り、わしは何でもお前たちのいうことを聞くから」
 怪塔王は、もうかなわないとおもったものか、にわかに下に折れてまいりました。
「なに、俺たちのいうことを聞くというのか。それならば――」
 と、小浜兵曹長は怪塔王に目をはなさず、
「俺たちの命令どおり、この怪塔ロケット隊の指揮権を渡すか」
 それを聞くと、怪塔王はびっくりして目を白黒していましたが、
「さあ、それは――」
 と、返答をしぶりました。
「いやか。いやなら、この殺人光線灯をかけるがいいか」
 と、小浜兵曹長が身がまえますと、
「ああ、あぶない。ま、待て」
「怪塔王ともいわれる人物でありながら、往生ぎわの悪い奴だなあ」
 帆村探偵も横からあきれ顔でいいました。
「しかたがない。ロケット隊の指揮を、お前たちにまかそう」
 怪塔王は、はきだすようにいいました。しかしそのうちにも、彼はしきりになにかを待っているらしく、耳をそばだてていました。

     3

 怪塔王は、とうとう帆村探偵と小浜兵曹長とに降参してしまったのです。これくらい痛快なことはありません。
「これで、俺は胸の中がはればれした」
 小浜兵曹長は、鬼の首をとったようによろこびました。
 帆村探偵は、また一歩前に出て、怪塔王の横腹をつつき、
「さあ怪塔王、こうなると、僕は永いあいだ貸しておいたものをいま君から貰うぞ」
「借りたものって、一体なにを借りたか」
 怪塔王はふしぎそうに、帆村をにらみかえしました。
「あはははは、もう忘れたのか。外でもない、君がいま顔につけているそのマスクのことさ」
「ええっ――」
「おぼえているだろう。このまえ、僕は、君がいまつけている変なマスクを取ろうとして、君のためやっつけられたのだ。いまこそ、そのマスクを取る。さて、その下か
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