いと引張ってみると、顔の皮は何の苦もなくずるずると剥《む》けました。
「あっ、マスクだったのか」
一皮剥けて、その下から出てきたのは、変な目つきをした黒人の顔でありました。
黒人の怪塔王?
兵曹長は、これをどう考えたらいいか、あまりのことに迷っていますと、また天井から大きな声で、
「あっはっはっはっ。どうだ。やっとわかったか。贋物《にせもの》の怪塔王の仮面がやっとはげたんだ。そのような怪塔王でよかったら、あと幾人でも見せてやるわ」
天井裏からおかしそうに響いてくる無遠慮な笑い声は、たしかに怪塔王にちがいありません。
6
「どうだ、小浜兵曹長。その辺で降参したらどうだ。もうなにごとも、貴様にのみこめたはずだ。貴様の脱獄したことがわかったので、こっちは計略で貴様をうまく怪塔のなかにひっぱりこんだというわけさ。あっはっはっはっ」
怪塔王はますます笑います。小浜兵曹長はうまく、怪塔王にひっかけられたことが、やっと呑《の》みこめました。
目をあげて、まわりを見まわしますと、いつの間に出て来たのか、いかめしい武装をした黒人が十四五人も、銃口をずらりと兵曹長へ向けてとりまいていました。
(もう駄目だ!)
兵曹長は、腸《はらわた》がちぎれるかと思うばかり、無念でたまりませんでした。しかしこうなっては、どうすることもできません。ですから、持っていたピストルもなにもその場へ放りだして、腕組をしました。
「そうだ。そういう風に、おとなしくして貰わにゃならない。いい覚悟だ。おい皆の者、この軍人さんを逆さに縛って、しばらく例のところへ入れておけ」
怪塔王の命令で、兵曹長は無念にも、胴中を太い綱でぐるぐる巻にされ、再びロケットの外につれだされました。
やがて目かくしをされ、大勢にかつがれ、またもや例の海底牢獄のなかに、どーんと放りこまれてしまいました。こんどは胴と両手とを綱でぐるぐる巻にされたままですから、とてもこの前のように体の自由がききません。
兵曹長は、この海底牢獄で幾日も幾日もくらしました。
帆村がまた助けに来てくれるかもしれないと心待ちに待っていましたが、いつまでたっても、再び彼の姿も声も、兵曹長の前には現れませんでした。
絶望か? 兵曹長の心も、すこし曇って来ましたが、さて或日――
司令室
1
ここは怪塔の司令室です。
この司令室は、怪塔の三階の一隅《いちぐう》にありました。
怪塔王は、司令室にただひとり、じっと地図をみています。
その地図は、どこの地図だったでしょうか。ほかでもありません。日本を中心とする太平洋の大地図でありました。
怪塔王は、たいへんうれしそうな顔をしています。
地図のうえで、日本のまわりを指さきでぐるぐるなでながら、
「うふん。いよいよこの辺が、こっちのものになるというわけだ。するとあとはもうおそろしくない国々ばかりだ」
怪塔王は、肩をゆすって、うふうふうふと気味のわるい笑い方をいたしました。
この司令室は、まるで電話の交換室のようになっていまして、この怪塔ロケット内のすべての機械の末端がここに集っていますから、この室にすわってさえいれば怪塔を自由にあやつることができるのでありました。いや、この怪塔内ばかりではなく、他のロケットも同様にあやつることができます。つまりいま怪塔王は、その司令配電盤を前にして、地図を見ているのでありました。なかなかうまく出来た司令配電盤でありました。そしてまた、これが怪塔王の心臓のように大事な機械でありました。
ずずずずず。
とつぜん警鈴がひびき、赤い注意灯がつきました。それは怪塔王のところに、無電がかかって来たのをしらせているのです。
怪塔王は、受話器を手にとりました。
「おう、お前は監視機百九号だね。何用か」
「はい、監視機百九号です。いま小笠原《おがさわら》附近の上空を飛んでいますが、はるかに北東にむかって飛行中の空軍の大編隊をみつけました」
「なんだって、今ごろ空軍の大編隊が北東にむかっているとは――」
2
空軍の大編隊が、北東にむかって飛んでいるという無電に、司令室の怪塔王はびっくりしました。
怪塔王は、その無電をかけてきた監視機にむかって、
「おいもっとくわしく知らせろ。どこの飛行機か。そして機数は?」
すると返事があって、
「さあ、どこの飛行機か、よくわかりません。じつは、はじめからそのことが気にかかっていたのですが、電子望遠鏡でのぞいても、飛行機にはどこの国のマークもついていないのです。じつに怪しい飛行機です」
「マークがついていない飛行機か。はて、それは怪しい」
怪しい怪塔王が怪しいなどというのです。どっちが怪しいか、おかしいことです。
「おい、飛行機のかっこうから考
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