ろで》にしばられてしまいました。怪塔王は、すっかり元気がなくなって砂上にすわりこんでしまいました。
「とうとう怪塔王を生けどったぞ! 怪塔王て、弱いのだなあ」
 小浜兵曹長は、両手をあげて、声高らかに万歳をとなえました。

     3

 怪塔王は捕えられてしまいました。
 小浜兵曹長は、大手柄をたてました。天にものぼるような喜びです。
 縛られてしまえば、あんがいに弱い怪塔王です。
 小浜兵曹長は、このとき怪塔王をひったてて塔のなかにはいり、ロケットを占領してしまおうと考えました。
 怪塔王も捕え、怪塔ロケットも占領してしまうとなると、これはまたたいへんな大々手柄です。いさみにいさみ、はりきりにはりきった小浜兵曹長は、
「さあ、歩け!」
 と、怪塔王をひったてました。
 怪塔王は、おそろしい形相《ぎょうそう》をして、小浜兵曹長をにらむばかりで、なにも口をきかなくなってしまいました。
 すぐ近くに見える怪塔ロケットは、舵機《だき》を修理したらしいところ、また機体のところにペンキのぬりかえられているところから見て、これが例の、青江三空曹の生命をうばった恨みの怪塔ロケットであると思われました。だから、これが数多いロケット隊の司令機みたいなものでありましょう、兵曹長は、まずこれを占領するのが一番いいことだと思ったので、怪塔王をひったてて入口へさしかかりました。
 ロケットの入口は、開いていました。
 そのとき、中から、四五人の黒人や、ルパシカを着た東洋人らしい男が出て来ましたが、兵曹長を見ると、びっくりした様子で、腰のピストルをとりだそうといたしました。
「待て」
 と、兵曹長は声をかけました。
「撃つのはいいが、撃てばその前に、俺はこの怪塔王の生命を取ってしまうがいいか」
 といって、お先まわりをして、怪塔王から奪ったピストルをさしむけました。
 これを見て、敵どもは二度びっくりです。怪塔王の生命は、兵曹長にしっかり握られているのです。うっかり撃てません。

     4

「さあどうだ。撃ちたくても、これでは撃てないだろう。この辺で、おとなしくお前たちも降参したがいいぞ」
 小浜兵曹長は、大音声をはりあげて、叫びました。兵曹長は、この大きな声が、帆村探偵に通じるであろうと思いました。もし通ずれば、彼はすぐさまここへ飛ぶようにして出てくるであろうし、そして、どんなにか喜ぶだろうと思ったのでありました。
 だが、どうしたものか、帆村探偵の姿は一向現れてまいりません。
(帆村探偵は、どうしたんだろうか?)
 兵曹長は一向|合点《がてん》がいきませんでした。
 しかし、ぐずぐずしてはいられないので、彼は縛ってある怪塔王と、降参したその手下どもをうながして、とうとう怪塔ロケットのなかにはいりました。
 それは、間髪《かんぱつ》をいれない瞬間の出来事でありました。
 とつぜん、怪塔ロケットの入口の扉が、ばたんとしまりました。
「あっ――」
 と兵曹長がさけんだときは、もう扉がしまった後でありました。
 怪塔王も、手下も、兵曹長のために自由をうばわれ、勝手に身うごきもできない有様になっていたので、兵曹長はすっかり安心しきっていましたが、どうしたことでしょうか。いや、そのとき、何者とも知れず、ロケットの扉のかげに隠れていた者があって、兵曹長が中にはいったとみるより早く、扉をぱたんと閉めたのです。
「こらっ、誰だ。変な真似をするとゆるさないぞ。貴様たちは、俺が怪塔王の命を握っていて、生かそうと、殺そうと、どうでもなるということを知らないのか」
 とどなりました。
 すると、そのとき、
「あっはっはっはっ」と、無遠慮に大きな声で笑う者がありました。

     5

「誰だ。大声をあげて笑うのは。お前たちの頼みに思う怪塔王は、こうして今、俺の傍に生捕《いけどり》になっているんだぞ」
 小浜兵曹長は、たしなめるように、大きな笑い声の主へ、注意をあたえました。
「あっはっはっはっ」
 と、その声は、またおかしくてたまらないといった風に笑い、
「なにを大きなことをいっているか。貴様はそこに怪塔王を捕えているつもりで、よろこんでいるのだろう」
「なにをいっているか」
 兵曹長はどなりかえしました。
「貴様こそ、なにをいっているか、だ。貴様の捕えているのが、怪塔王か怪塔王でないか、そのお面をとってみれば、すぐわかるだろう。あっはっはっはっはっ」
「ええっ――」
 お面を取れといわれて、兵曹長はびっくりしました。そしてやっと或《ある》ことに気がつきました。
 こうなっては、早く本当のことを知らねばなりません。兵曹長は、生捕にした怪塔王の顔を見つめました。見ていますと、別にお面をかぶっているようにも見えませんでしたが、念のためと思って、怪塔王の顔に手をかけ、え
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