り笑いました。
3
小浜兵曹長がかくれていた丘の上の見張小屋の方へ近づいてくる人影が、意外にも怪塔王らしいとわかって、兵曹長は、小屋をとびだしました。
(うまく怪塔王のうしろへ出ることができれば、ちょっとした格闘のすえ、怪塔王を捕えることができるはずだ。怪塔王さえ捕えてしまえば、いくら怪塔ロケットがあったとしても、またこの白骨島に根拠地があったとしても、怪塔王たちは俺に降参するよりほかあるまい。うん、これはじつにすばらしい考えだ。よし、怪塔王を捕えてしまえ)
小浜兵曹長の胸は怪塔王を生けどりにした後のうれしさで、わくわくいたしました。
彼は見張小屋を後にし、岩の間をつたわって、だんだん山をおりていきました。
ときどき岩かどから、怪塔王の様子をうかがいましたが、どうやら怪塔王はまだこっちに気がついていないらしく、しきりに地面をさがしていました。
(よしよし、この調子なら、いましばらくは、きっと気がつかないことだろう。さあ早く怪塔王のうしろに廻ろう)
小浜兵曹長の追跡は、いよいよ熱をくわえて来ました。こんなことは軍艦の帆桁《ほげた》から下りるより、ずっとやさしいことでした。
だが、兵曹長はすこしやりすぎてはいないでしょうか。帆村探偵は、兵曹長が怪塔王の仲間に見られることをたいへんおそれていたのに、兵曹長は大胆にも小屋を出て、怪塔王を追いかけているのですから、ちとらんぼうのようにも思われます。
そのうちに、小浜兵曹長はついにうまく怪塔王のうしろに出ました。怪塔王は、なにも知らないで、まだ地面をさがしています。こうなれば、怪塔王は小浜兵曹長の手の中にあるようなものです。
「やっ!」
小浜兵曹長は、掛声もろとも、怪塔王のうしろからとびつきました。
大格闘
1
「この野郎!」
小浜兵曹長は、怪塔王の背後からとびついて、砂原の上におさえつけました。
「ううーっ」
怪塔王は、大力をふるって下からはねのけようとします。
そうはさせないぞと、兵曹長は怪塔王の首を締《し》めるつもりで、右腕をすばやく相手ののどにまわしましたが、その時怪塔王にがぶりと咬《か》みつかれました。
「あいててて」
犬のように咬みつかれたので、小浜兵曹長は、おもわず力をぬきました。
すると怪塔王の腰が、鋼《はがね》の板のようにつよくはねかえり、あっという間もなく、兵曹長はどーんと砂原の上に、もんどりうって投げだされました。
「しまった」
兵曹長も、さる者です。砂原の上にたたきつけられるが早いか、すっくと立ちあがりました。そして踵《くびす》をかえすと、弾丸のように、怪塔王の胸もと目がけてとびつきました。
「なにを!」
「うーむ」
小浜兵曹長と怪塔王とは、たがいに真正面から組みつき、まるで横綱と大関の相撲《すもう》のようになりました。
小浜兵曹長は力自慢でしたが、怪塔王もたいへんに強いので、油断はなりません。
えいえいともみあっているうちに、兵曹長は得意の投《なげ》の手をかける隙をみつけました。ここぞとばかり、
「えい!」
と大喝一声、怪塔王の大きい体を砂原の上にどーんとなげだしました。
怪塔王は、俵を転がすように、ごろごろと転がっていましたが、やっと砂原の上に起きなおったところをみると、いつの間にか右手に、妙な形のピストル様のものを持っていました。兵曹長は、はっと立ちすくみました。
2
「さあ、寄ってみろ。撃つぞ」
怪塔王は、砂原の上に、妙な形のピストルを手にして、小浜兵曹長の胸もとを狙っています。
これには、勇敢な兵曹長もちょっとひるみました。怪塔王の手にある妙な形のピストルは、このままではどうしても小浜兵曹長の胸を射ぬきそうです。
小浜兵曹長は、じっと怪塔王を睨んで立っていました。
兵曹長の息づかいは、だんだんとあらくなって来ます。額から頬にかけて、ねっとりした汗がたらたらと流れて来ます。
「うぬ!」
とつぜん、兵曹長の体は、砂原の上に転がりました。ごろごろっと転がって、怪塔王の足もとを襲いました。
そうなると、怪塔王のピストルのさきは、どこに向けたがいいのかわかりません。
だだーん、だだーん。
はげしい銃声がしました。砂が白くまきあがりました。
「こいつめ!」
いつの間にか、兵曹長は砂原の上に立ちあがっていました。
ピストルをもった怪塔王の右手に手がかかると、一本背負いなげで怪塔王の体を水車のようになげとばしました。
「ううむ」
小浜兵曹長は、呻《うな》る怪塔王に馬のりとなりました。妙な形のピストルは、兵曹長の靴にぽーんと蹴られ、はるか向こうの岩かげにとんでいってしまいました。
「さあ、どうだ。うごけるなら、うごいてみろ」
怪塔王は、帯革でもって後手《うし
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