はたらかせて、五分間つづけざまに電波を発射いたしました。
本隊の方では、この電波を方向探知器ではかり、小浜兵曹長のいまいる位置をはっきりきめようというのです。
そのうちにも、小浜兵曹長は生存していたというよろこばしくも、またおどろくべきニュースは、それからそれへと伝わっていきました。
本隊の無電班は、しきりに潜水艦ホ十九号をよんでいます。
その潜水艦は、そのころちょうど南洋群島附近を巡航中でありましたが、よびだしの無電をうけとったので、すぐさま無電で応答してまいりました。
「貴艦は直ちに、遭難機の方角を測定せられよ」
「承知!」
本隊と潜水艦ホ十九号との両方の方向探知器が、ともに小浜機の発射する電波の飛んでくる方角をさだめました。
両方の結果をあわせて、地図のうえに、小浜機の位置をもとめてみますと、ついにわかりました。
北緯三十六度、東経百四十四度!
それが遭難機の位置になります。
そこは、犬吠埼《いぬぼうざき》からほとんど真東に、三百キロメートルばかりいった海中です。
いや、海中ではありません。普通の地図には出ていませんが、実はそこに一つの小さな島があるのです。
島の名は、世にもおそろしき白骨島《はっこつとう》!
この島は無人島ということになっていました。しかし、昔からこの島には、何べんか原地人が住んだことがあるのです。しかし、いつの場合でも、原地人たちは誰もこの島から元の集落へ帰ってきません。後から別の原地人たちがいってみますと、前の原地人たちは白骨になっているのです。それが毎度のことでした。
白骨島
1
そういう不思議ないいつたえのある白骨島です。だれも恐しがって住む者がありません。いまではもう無人島になっていることと、だれもが信じていた白骨島です。
その白骨島に、小浜機が不時着したというのです。翼は折れて飛べなくなったといい、また操縦士の青江三空曹が壮烈なる死をとげたといいます。それさえたいへんなニュースであるのに、その白骨島の山かげには、怪塔ロケットが八台も肩をならべて聳《そび》え立っているというのです。これが一大事でなくてなんでありましょう。
しかし、その位置がわかったことは、なによりよいことでありました。
「貴官の位置は判明した。北緯三十六度、東経百四十四度、白骨島と思われる」
本隊からは、すぐさま小浜兵曹長に結果を知らせてやりました。
そして、もっと島の模様を知らせてよこすように命令を出しました。
「よろしい。まず地形をのべます。島の中央に、鋸《のこぎり》の歯のような岡があり、その東……」
と、そこまで無電は文字をつづってきましたが、とたんにぷつりと切れました。あとはどう催促してもだめでした。
小浜兵曹長は、どうしたのでしょうか。
いや、どうしたのどころではありません。白骨島のうえでは、いま大格闘がはじまっているところです。
小浜兵曹長は、本隊との無電連絡で、一生けんめいになっていましたところ、とつぜん背後から首をぎゅっとしめつけられました。全くの不意うちでありました。
兵曹長は、救難信号をうつ間もなく、電鍵から手をはなさなければなりませんでした。
「な、何者!」
というのものどの奥だけです。兵曹長は、自分の首をしめつけた曲者の腕をとらえて、やっと背負投《せおいなげ》をしました。それから大乱闘となったのです。とつぜん現れた相手は一体何者でしょう?
2
勇士小浜兵曹長は、息つぐまもなく前後左右からくみついてくる怪人たちを、あるいは背負投でもって、機上にあおむけに叩きつけ、あるいはまた得意の腰投で投げとばし、荒れ獅子《じし》のようにあばれまわりました。
兵曹長をおそった怪人たちも、このものすごい兵曹長の力闘に、すこしひるんでみえました。そして砂上に、遠まきにして、兵曹長をにらんで立っています。
小浜兵曹長は、はじめてこの不意うちの敵をずらりとみまわしました。
敵の人数は十四五人もありました。兵曹長一人の相手としてはずいぶんたくさんの人数です。
「な、何者だ。俺をどうしようというのか」
小浜兵曹長は、ひるむ気色もなく、敵に対してどなりつけました。
「う、ううっ」
と、呻《うな》っている敵方の面々は、黒人があるかと思うと、ロシヤ人がよく着ているルパシカという妙な上衣《うわぎ》をきている者もあります。このルパシカをきているのは、白人のようでありました。
そのうちの一人の白人が、たっしゃな日本語でもってしゃべりだしました。
「アナタは、向こうの山へのぼって、下になにがあるか、ことごとく見たでしょう。白状なさい」
言葉はたいへんていねいですが、敵の身構《みがまえ》はたいへんものすごいです。多分彼は、こういうていねいな日本語
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