た。
「これでは、まるでロビンソン=クルーソーだ。どうか山の向こうに、一軒でもいいから人間の住んでいる家がありますように」
 ロビンソン=クルーソーは、有名な漂流物語の主人公ですね。
 小浜兵曹長は、いよいよのこぎり山の頂上を、すぐ目の前に見るようになりました。
「さあ、いよいよ向こうが見えるぞ。はやくのぼってしまおう」
 兵曹長の足どりは、急にかるくなりました。やっとかけごえをかけ、のこぎり山の頂上の岩の間から、向こうをひょいとながめました。
 そのときの兵曹長のおどろいた顔ったら、ありませんでした。
「やややややっ、これはたいへんだ。まさか夢を見ているのじゃあるまいな」
 兵曹長は、岩の上に、へなへなと腰をおろしました。あまり思いもかけない風景に、さすがの猛兵曹長も胆《きも》をつぶしたようです。
 山の向こうには、一体どんな風景があったでありましょうか。
 おどろいてはいけません。山の向こうは、まっ平になっていまして、怪塔ロケットが七つ八つも、まるで筍《たけのこ》のように地上に生え並んでいるのです。

     4

 山の向こうは、たぶんひろびろとした海岸であって、白い砂浜を、まっ青な浪が噛んでいるのであろうとおもっていた小浜兵曹長の想像は、すっかり外れてしまいました。
 のこぎり山の向こうは、ちゃんと地ならしをしてありまして、りっぱな飛行基地のようです。おどろきはそればかりではなく、天下にただ一つとおもっていた怪塔ロケットが一つや二つどころか、みなで八台も並んでいたのです。
「これはたまげた。一体あそこはどういう人が持っている飛行基地なんだろう」
 飛行基地ではない、怪塔ロケット基地といった方が正しいようです。
 あのおびただしい怪塔ロケットは、一体誰のものなのでしょう。そしてまた、こんなところに集めておいて、なにをしようというのでしょうか。
 考えれば考えるほど、たいへんな秘密基地です。小浜兵曹長は、この地球のうえに、まさかこのようにたくさんの怪塔があろうとは、一度も考えたことがありませんでした。
「下りていってしらべてもいいが、もし俺がみつかればふたたび生かして帰してくれまいなあ。命はおしくないが、このような秘密基地のあることを、わが海軍に知らせるまでは、死んだり俘虜《ふりょ》になってはいけない」
 このとき小浜兵曹長は、海岸に翼をぶっつけて壊れてしまった愛機の中に、まだ無電装置だけは壊れずにあったことをおもいだしましたので、それを使って至急艦隊へ知らせようと、踵《くびす》をかえして、のこぎり山をかけおりました。
 どんどん走って、壊れ飛行機の上にとびのり、無電装置をいじってみますと、天のたすけか、うまく働くではありませんか。
 兵曹長は、しきりに艦隊の無電班によびかけました。すると、ひょっくり応答がはいってきました。
「おお、小浜兵曹長からの無電だ。小浜はもう海中に墜《お》ちて死んだかとおもっていたのに、ちゃんとこっちを呼んできたぞ」
 無電班は、おどろいたり、よろこんだり。

     5

 孤島から、小浜兵曹長がうった無電は、艦隊無電班をたいへん驚かせました。
 それから双方はしばらく、無電をさかんに打ちあいました。
「貴官は今、どこにいて、なにをしているのか」
 と、小浜兵曹長にたずねますと、
「自分は怪塔を見失い、嵐の中をむちゃくちゃにとびまわり、ついに無人島らしきところに不時着し、翼を折った。もう飛行機は飛べない。しかし身体には異状がないから、安心を乞う――応援に出動したという知らせのあったわが飛行隊はどうしたか」
 と、小浜兵曹長は答え、また問いかけました。
「わが出動飛行隊は、暴風雨にさえぎられ、ついに怪塔ロケットにもあわず、貴官の飛行機にもあわなかった――その孤島は何処《どこ》かわかるか」
「わからない。しかし自分は大変なものを発見した。この島に、のこぎりの歯のような形をした山がある。この山の西側に、大飛行場があって、そこに怪塔ロケットが七八機集っている。だからこの島は怪塔ロケットの根拠地だと思う。はやくこのことを塩田大尉に知らせてもらいたい」
 すると、無電班ではたいへん驚いたようでありました。しばらく答はなく、小浜兵曹長は、無電が故障になったかとおもったくらいでありました。
 そのうちに、艦隊からの無電が、また聞えてきました。
「貴官の報告は、じつに重大なものであった。貴官のいる孤島の位置を知りたいから、これから五分間つづけて電波を出してもらいたい。こっちでは、その電波を方向探知器ではかって、位置をきめるから。とにかく貴官は貴重なる偵察者であるから、大いにそこにがんばっていてもらいたい。では、早速《さっそく》五分間つづけて電波発射をたのむ」

     6

 小浜兵曹長は、愛機の無電装置を
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