いつに似ず、たいへんがんばっています。
「だがねえ、一彦君」
と、こんどは塩田大尉が、口をひらき、
「君のいうように、もし怪塔王と博士とが、同じ仲間だとすると、博士のズボンが血ぞめになっているのが変ではないかねえ。なぜといえば、仲間同志で殺しあうなんてことは変だからね」
「あれは、怪塔王が僕たちをだますためにやったのだと思います。怪塔王が博士を殺したとみせかけ、実は――実は。――」
と、一彦少年は、その先をいおうか、いうまいかと、息をはずませました。
兵曹長の蘇生《そせい》
1
小浜兵曹長は、どうしたでしょうか。
大暴風の中を突破して、やっと陸地をみつけて海岸に不時着した兵曹長は、そのまま、機上に人事不省《じんじふせい》になってしまったことは、皆さんおぼえておいででしょう。
それからどのくらい時間がたったかしれませんがふと気がついてみると、夜はすっかり明けはなれ、あれほどはげしかった嵐はどこかへ行ってしまい、まるで嘘のような上天気になっていました。
「ああっ、暑い!」
やけに暑い太陽の光線が、兵曹長の体にじかにあたっていました。その暑さのあまり、気がついたらしいのです。
「ああ、どうも暑くてたまらん。なんて暑いのだろう。のどが乾いて、からからだ」
兵曹長は、座席の下から水筒をとりだし、目をつぶって、がぶがぶとうまそうにのみました。
ふと気がついてみると、これは青江三空曹の名のはいった水筒でありました。怪塔王と闘って、ついに壮烈な死をとげた青江三空曹のことが、いまさらに思い出されて、兵曹長ははらはらと涙をこぼしました。
「おい、青江。空のどこからか俺の声を聞いているか。俺はきっと貴様の仇を討ってやるぞ。俺のすることを見ていろ!」
と、ひとりごとをいいながら、また水筒の水をがぶがぶとのみましたが、
「やあ青江、いま貴様の水筒から水をのんでいるぞ。どうもごちそうさま、貴様は暑かないのか。なに、もう神様になったら、ちっとも暑くないって。よしよしわかった。それじゃ、もう一口水筒の水をごちそうになる。いやどうもすまん」
兵曹長は、ひとり芝居《しばい》をやりながら、また水筒の水をがぶがぶとのみ、とうとう水筒をからにしてしまいました。よほどのどが乾いていたようです。むりもありません。昨日からの兵曹長の奮闘ぶりといい、そして今またこの暑さです。
2
「なんしろ暑い。ここはどこなんだろう」
と小浜兵曹長は、座席から下りて、飛行機の陰にはいりました。
「ああ、壊れていらあ。翼がめちゃめちゃだ。よく働いてくれた愛機だったが、もうどうにもならん」
愛機は、怪塔王の磁力砲にうたれたり、暴風雨に叩かれたり、無理な着陸で翼を折ったり、さんざんな目にあいました。
水をうんとのんだので、兵曹長はたいへん元気づきました。さらに座席の下から、航空用食料をとりだして食べましたので、いよいよ兵曹長は大元気になりました。
「さあ、元気になった。ところで、電話のある家をさがそう」
兵曹長は腰をあげ、壊れた飛行機の下から出ました。
小手をかざして、附近をじっと眺めていた兵曹長は、
「ここは一体どこだろうか。たいへんさびしい海岸だな」
うしろに砂丘がありましたので、兵曹長はその上にのぼりました。高いところへのぼれば、見晴らしがきくからと思ったのです。
「あれえ、な、なんにも家らしいものが見えないぞ」
海岸に家が一軒もないばかりか、その奥は一面の砂原つづきでありまして、家も見えなければ、電柱も立っていません。
「これはおどろいた。まるで無人島のようだ」
無人島?
この荒涼たる風景を見ていると、ほんとうに無人島であるように思われてきました。
「無人島へ不時着したとなると、こいつはなかなかやっかいなことになったぞ」
でも兵曹長は、口ほど困っている様子もなく、あたりをしきりにじろじろ見ていましたが、砂原の向こうは、そう高くない山ですが、まるで、鋸《のこぎり》の歯のように角ばった妙なかっこうの山があるのに目をつけました。
3
無人島で見つけたのこぎり山!
小浜兵曹長は、そののこぎり山のところまでいって山をのぼって見ようとおもいました。
ひょっとすると、山の向こうに、なにか漁夫の家でもありはしないかと、そんなことを考えついたからです。
小浜兵曹長は、草原を山の方にむかって、歩きだしました。
太陽の光は、じつに強く、頭がぼうっと煙になって燃えてしまいそうです。でも、その砂まじりの草原を、どんどんすすんでいきました。
草原がつきると、いよいよ岩石でつみあげられたのこぎり山です。小浜兵曹長は、はやく山をのぼりきって、その向こうにどんな風景があるか見たいものだと、たいへん好奇心をそそられまし
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