いていられた! すると博士は……」


   一彦の探偵眼



     1

 怪塔王というふしぎな人物のために、軍艦淡路をこわされたり、飛行機をうちおとされたりしたものですから、わが海軍は、いよいよこれは一大事と怪塔王を本式に討伐することになりました。
 なにしろめずらしい新兵器をもっている怪塔王を相手とするのですから、その作戦もなかなかたいへんです。
 まず第一におしらせしなければならぬことは、秘密艦隊というものが編成されたことです。この司令官には、池上少将《いけがみしょうしょう》が任命されましたが、この秘密艦隊は、それこそまったくの極秘のうちにつくられたので、海軍のなかでも知らぬ人がたくさんありました。
 怪塔王を討伐するために、艦隊ができたということは、まったく今までになかったことです。それを見ても、いかにわが海軍では怪塔王をおそるべき敵とおもっているかがわかるでしょう。
 ○○軍港にうかんでいる旗艦六甲《きかんろっこう》の司令官室において、池上少将は、いま幕僚を集めて秘密会議中です。そこには塩田大尉と一彦少年の顔も見えます。いや、見えるどころではなく、二人はいま、司令官に大利根博士邸のことを報告しているところなのです。
 司令官はじめ幕僚は、塩田大尉の報告があまりに怪奇なので、目をみはったり、首をふったり、拳《こぶし》をかためたりして、おどろいています。
「その縞ズボンは、たしかに大利根博士の物にちがいないのだね」
 司令官は、念をおしました。
「はい、塩田はかたくそう信じております」
「それで、大利根博士は、その後どうしたというのか」
「博士は、この血ぞめの縞ズボンを残したまま、どこかへいってしまったようです。私どもは、かなりくわしく秘密室をしらべましたが、とうとう博士の姿をみつけることができませんでした」

     2

「博士のありかがわからないうちは、なんともいえないが、どうやら博士は、怪塔王一味に襲われたと思われるが、それはどう思う」
 司令官池上少将は、塩田大尉にたずねました。
「塩田も、司令官閣下のおっしゃるところと同じ考《かんがえ》であります。大利根博士は、新しい学問をしている国宝的学者です。怪塔王にとっては、それがずいぶん邪魔であることと思います。それで襲撃しまして、博士を殺したのではないでしょうか」
「まず、そんなところであろうな」
「ところが、ここに居ります一彦少年は、私とちがった考をもっております。少年の口から、ぜひおききをねがいたいのであります」
 塩田大尉は、かたわらに腰をかけている一彦の方をふりかえった。
「なに、この少年がちがった考をもっているというのか。それはぜひ聞かせてもらおう」
 司令官も、一彦が帆村探偵の甥《おい》であることは、よく知っていました。この少年が、なにをいいだすやらと、急に顔をにこにこさせて一彦をながめました。
「僕は、大利根博士がたいへん怪しい人物だと思います。なぜといえば、博士邸には怪しいことだらけです」
「怪しいことだらけとは――」
「まず第一に、博士の実験室がエレベーターのように上下に動きます。これと似た仕掛が、怪塔の中にもありましたよ。帆村おじさんと僕とは、その仕掛のために、檻《おり》の中に入れられて、一階下へ落されたことがありました」
「怪しいことがあるなら、どんどんいってごらんなさい」
 司令官は、熱心な面持で、一彦をせきたてるようにいいました。
「第二は、この猿の鍵です」
 一彦は、ちゃりんと音をさせて、テーブルの上に大きな鍵を出しました。

     3

「なに、猿の鍵?」
 司令官は、その大きな鍵を手にとって、ふしぎそうにながめ、
「第二に、この鍵が怪しいとは」
「そうです、博士邸の一番おくにある秘密室は、その鍵であいたのです。ところが、その猿の鍵は、怪塔王が大事にしてもっている鍵なのです。あの怪塔の入口をあけるのは、やはりこの鍵でないとだめなのです」
 と、一彦は自分の信じているところをすらすらとのべました。
「で、それがどうしたというのかね」
「はい、司令官閣下。僕が今あげたように、怪塔と博士邸とは、たいへん似たところがあるのです。ですから、怪塔王と大利根博士とは――」と、ちょっと言葉をとどめ、「同じ仲間ではないかとおもうのです」
「えっ、怪塔王と大利根博士とが、同じ仲間だというのか。それはどうもとっぴな答だ。あっはっはっ」
 司令官は、思わず笑いました。
「でも、そうとしか考えられませんもの」
「しかしだ、一彦君。博士は、われわれの尊敬している国宝的学者だし、それにひきかえ怪塔王は、わが海軍に仇《あだ》をなす憎むべき敵である。その二人が同じ仲間とは、ちと考えすぎではあるまいか」
「でも、そうとしか考えられませんもの」
 一彦少年は、
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