のキャラメルを頬ばってみましたが、なるほどたいへんおいしく、そして口の中がすうっとしました。
「どうだ一彦君、海軍のキャラメルも、なかなかおいしいだろう」
「ええ、僕、大すきだな」
 二人がうまそうにキャラメルをしゃぶっているうちに、この室には、すでに変なことが起っていました。二人が円い腰掛に腰をおろしたときに、それが始ったのですが、まずそれに気がついたのは、一彦です。
「あっ、塩田大尉、変ですね。この部屋はうごいていますよ」

     3

「この部屋が、うごいているって。――なるほどこいつはたしかにうごているぞ」
 塩田大尉はおどろいて、椅子から立ちあがり、一彦少年の顔を見ました。
 一彦は、目をくるくるまわしていました。
「ああ、この部屋はずんずん下っていく――」
「うん、なるほど下っていく」
 一彦少年は、このまえ怪塔の中に帆村と忍びこんでいたとき、やはり自分のいた部屋が、床ごと下へ下っていったときのあのおどろきを、またあたらしく思いだしました。それを大尉にはなしますと、大尉は剣をひきよせたまま、うんうんとうなずいてみせました。
 部屋は一体どこまで下っていくのであろうと、二人はそればかり考えています。
 ごとん。
 かすかに床がゆれて、うごいていた部屋はぴたりととまりました。
「ああ、とまった」
「うむ、とまったね」
 二人は、目を見あわせ、ほっと溜息《ためいき》をつきました。なんという思いがけないからくりが仕掛けてあったことでしょう。
「こんなエレベーターみたいな仕掛が、はやっているのでしょうかねえ」
 少年は、ふしぎでたまりません。
「さあ、どうだか、それは――」
 とまごついた大尉は、そのときになに思ったものか息をのみ、
「おう、あんなものがうごきだした。一彦君、君のうしろの、機械戸棚がうごいているよ」
「えっ」
 一彦がふりかえってみると、おどろきました。顕微鏡や気圧計などいろいろの理化学機械のはいった戸棚が、しずかに横にすべりつつ、壁の中にはいっていくのでした。
 二人は息をころして、ひとりでにうごいていく戸棚を見つめていました。
 戸棚のうごいていった後には、意外にも、一つの扉があらわれました。地下室の怪!

     4

 大利根博士邸の実験室が、塩田大尉と一彦少年とをのせて、まるでエレベーターがさがるように、すうっと下におちていったのさえふしぎでありますのに、そのおちきったところで、実験機械をいれてある戸棚が、するすると横にすべって壁の中にかくれたのは、またふしぎです。そして、戸棚のうしろには、どこへ通じているのか、おもいもよらない扉があらわれました、いよいよもってふしぎであります。
「おお扉だ。これは大利根博士の秘密室の入口なんだろう。一彦君、この中になにがあるかしらないが、かまうことはない。行けるところまで、どんどんはいって行こうじゃないか」
 塩田大尉は、一彦をふりかえって、はげましました。
「ええ、僕も突撃しますよ。もうなにが出てきたっておどろくものですか」
「よろしい、その元気、その元気」
 塩田大尉は、体に似あわず元気な少年をたのもしくおもいました。
「ところで、この扉だが、どうすればあくのだろう」
 と、塩田大尉が、扉のところへ近づきました。
「おやおや、鍵穴もなんにもありませんね」
 と、一彦も、ともに顔を扉に近づけながらいいました。
 ふしぎにも、その扉には、鍵穴もなんにもありません。
「はて、押しボタンでもあるのじゃないかなあ」
「さあ、ちょっと手で押してみましょうか」
 一彦が、扉を押すために、手をちょっと扉にふれますと、扉はまるで弾《はじ》かれたように、するすると上にあがってしまいました。
「おやっ、手をふれただけで、あいたよ。ははあ、すぐこの奥にとびこめるようになっているんだね」
 さて、あいた扉の向こうには?

     5

 ぱっくりと開いた怪しの扉のうちは、なにがあるのか真暗でありました。
「一体、この中には、なにがあるのだろう」
 塩田大尉と一彦とは、しばらく中をじっとみつめていましたが、なにしろ真暗で、なにも見えません。人のいるけはいでもと思って、耳をすましてじっと聞いていましたが、なんの音もしません。
「塩田大尉、とびこんでみましょうか」
 一彦は元気にいいました。
「うん、ちょっと待ちたまえ。ためしてみるから。――」
 塩田大尉は、ピストルを取出すと、室内の天井めがけて、ずどんと一発放ちました。
 かあんという、固いものにぶつかる高い音が、銃声のあいだにきこえました。しかし、その銃声におどろいて、鼠一匹飛出してくる様子がありません。
「もう大丈夫だ。進め!」
 塩田大尉は、まっさきに室内にとびこみました。つづいて一彦が。――
 すると、ふしぎなことが起りま
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