ットの飛行をさまたげられ、なんという意地のわるいやつだろうと舌うちをしているところへ、このような綱がぐるっとロケットの胴中をしばってしまいました。そして大事な舵の上をその綱がおさえてしまったのですから、ますますロケットの飛行はくるしくなりました。これでは、ちょうど歩いている人間の両腕、両脚をしばってしまったようなもので、走るに走れず歩くことさえなかなか大骨折です。
 だが、なんという乱暴な、そしてなんという思いきった青江機のやり方でしょう。
 いま青江機は、まったくエンジンをとめました。ですから、ロケットにひっぱられて、まるで大きい船のうしろに綱でむすびつけられている伝馬船《てんません》のように、ロケットの飛ぶまにまに、あとからついていきます。
「ちぇっ、あんなことをして、ぶらさがっていやがる」
 怪塔王は、窓の外の光景を、テレビジョンで見ながら、いくども大きな舌うちをいたしました。
「こうしていては、いつまでたっても、思うところまで逃げられやしない。なんとかしてあの飛行機をぶっつぶす方法はあるまいか」
 怪塔王は、けわしい目をぎょろりと光らせて、映写幕にうつる宙ぶらりんの青江機を、いまいましそうににらみつけました。

     2

 小浜・青江の二勇士が、おもいきった決死の大冒険をしまして、麻綱をもって愛機を怪塔ロケットにむすびつけたものですから、怪塔王は大腹立ちです。このままでは、怪塔ロケットのいくところへ、青江機がどこまでもついてくるわけですから、邪魔になるったらありません。
 怪塔王は、窓から首を出して、青江機をいまいましそうににらみつけていましたが、
「うん、よしよし。そうだ。あの飛行機をやっつけるにいい方法があった」
 と言って、顔を窓からひっこめました。なにを考えついたのでしょうか。とにかく怪塔王はいろいろといい武器をもっているので、おそろしいことです。
 こっちは小浜・青江の二勇士です。
 愛機は、さっき申したとおり麻綱でロケットにつながり、そのままひっぱられていきます。エンジンはもうとめてあります。操縦席の青江三空曹は、舵だけを一生けんめいでひいています。
「おい、青江、うまく飛んでいくなあ」
 と小浜兵曹長が声をかけました。
「はあ、エンジンをかけないでよろしいのでありますから、ガソリン節約になりましてけっこうであります」
「はっはっはっ、ガソリン節約はお国のため――というやつだな。しかし怪塔ロケットはすっかりおとなしくなったね」
「はい、おとなしくなりました。しかしあれでスピードを出しますと、まっすぐはとべないのですよ。御承知のとおりロケットの舵がこわれていますうえに、こっちの麻綱が舵の上からおさえつけていますので、スピードは出せますが、思う方向へとぶことができないのであります。つまり、どこへとぶのやらさっぱりわからないのであります」
「うん、どこへとぶやらさっぱりわからないわい。高度はいま一万メートルだが、いま何県の上空にいるやらさっぱり、下が見えないや」

     3

 怪塔ロケットにつながって、一万メートルの上空を滑走《かっそう》していく青江機上では、小浜・青江の二勇士が顔色一つかえずにのんきな話をつづけています。
「上官、まったく気持がいいですねえ。第一、エンジンをはたらかさなくてもいいからガソリンはいらないし、その上エンジンの音もプロペラの音もしないから、しずかでいい。ただうるさいのは、あの怪塔ロケットが放出するガスの音です」
「うん、ガスの音もかなわんけど、ガスの臭《におい》はいやだな。プロペラがまわらなくなったので、あの悪臭が頭の上から遠慮なくおりてくる」
「それでは毒ガスマスクを被りましょうか」
「うん、それほどのこともなかろう。ロケットのお尻の方にまわったのが、こっちの不運だ。いや、今になれると楽になるよ」
「私は、ガスの悪臭をそれほど苦に感じません」
「ほう、それほど感じないとは、貴様にしては感心だな。おれは相当つらいよ」
「いや、それほど私をほめていただかなくともいいのであります」
「貴様、きょうはいやに謙遜《けんそん》するね」
「どうも恐れ入ります。じつは昨日から風邪《かぜ》をひいていますので、鼻がきかないのであります」
「なんだって、風邪をひいていて、鼻がきかないというのか。わっはっはっ、なるほどそれなら、臭いものを嗅《か》いでも平気の平左でいられるはずだ。わっはっはっ」
「えへへへへへ」
 と、青江三空曹は、すこしきまりわるそうに笑いました。
 その時、怪塔王の顔がふたたび窓からあらわれました。青江機の方をじろりとにらみつけると、
「うふふふ。さあ日本の水兵め、神の名でもとなえるがいい」

     4

 怪塔王は、ロケットの窓から首を出し、下の青江機をにらみつけ、神の
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