名でもとなえるがいいと、気味のわるいことを言いましたが、一体なにごとをはじめようというのでしょうか。
「おや、また怪塔王が、窓から顔をだしているぞ」
「あっ、なにか手に持っていますぞ」
 小浜・青江の二勇士が、たがいに叫びあううちに、怪塔王は半身を窓からのりだすと見る間に、かくしもっていた怪しい機械をぴったりと自分の胸にあてて、身がまえました。
「あっ、あんなものを出しやぁがった。あれはなんだろう」
「さあ、ベルクマン銃に似ていますけれども、ベルクマン銃が三つ寄ったくらいこみいった武器ですね」
「そうだ、武器にちがいない。どうするつもりかしら。ともかく戦闘準備だ。ぬかるなよ」
 怪塔王は、その怪しい武器を胸につけて身がまえると、その狙《ねらい》をロケットのうしろの方につけました。
 やがて奇妙な音響がすると、その怪しい武器の銃口とおもわれるところから、太いうす紫色の光がさっととびだしました。
 うす紫色の光線!
 あれはなんだろうとおもっているうちに、この光線はしきりに、ロケットのうしろの方をなでています。光線がロケットの外壁にあたると、そこから黄いろいような赤いようなつよい焔《ほのお》がぱっとあがりました。
「おおあれが磁力砲なんだろう。おれははじめて見たぞ」
 と、小浜兵曹長は望遠鏡から目をはなそうともしません。
 おそるべき磁力砲の力!
 それは、いまうす紫の光線を吐きながら、金属をめらめらと熔《と》かしていきます。

     5

 怪塔王が、いよいよ磁力砲を使いだしたのです。空中をとんでいく怪塔ロケットの窓から半身をのりだして、しきりに妙な機械を下へ向けています。
 怪塔のお尻の方が、赤黄いろい焔をあげて、めらめらととけかかります。
 小浜兵曹長と青江三空曹とは、このありさまを、またたきもせずじっとみつめています。
「おおあれだ。たしかにあの武器だ。金属にかけると、めらめらと焔をあげてとけてしまうというおそるべき武器だ。あれが怪塔王が一番大事にしている武器なんだ。あっ、あのとおり、怪塔ロケットの壁がとろとろとけていく。おい青江、あれをみろ」
「上官、私ははじめてみました。あれが噂《うわさ》にたかい磁力砲なのですか。しかし怪塔王は、自分の乗っているロケットの壁をとかして、一体なにをしようというのでしょう」
 まったく変なことをやる怪塔王です。磁力砲はしきりにうす紫の怪力線をうちだしています。
「うん、あれはね、怪塔王のやつ、こっちが麻綱にひっかけておいた錨をねらっているのだよ。つまりあの錨をとかせば、麻綱がほどけると思ってそれでやっているのさ」
「ああ錨をとかすつもりなのですか。錨よりも、麻綱を切ればいいのに。怪塔王も、考えが足りませんね。あっ、はっ、はっ」
 と、青江三空曹が笑いました。しかし、それは彼の思いちがいでした。
「そうじゃないよ。青江、磁力砲は金属をとかす力はあるが、金属でないものにはわりあい力が及ばないのだ。だから、あのうす紫の光線は、鉄板をとかしても麻綱をとかすことは出来ないのだ。怪塔王が麻綱をねらわないで錨をねらっているわけが、これでよくわかるだろう」
 青江三空曹は、「ははん、そんなものか」と感心したりびっくりしたり。

     6

 怪塔王は磁力砲をさかんにふりまわしています。
 怪塔ロケットのお尻がめらめらととけていきますが、かんじんの錨はなかなかとけません。
「やあ、怪塔王のやつ、手がふるえていて、うまく錨にあたらないのだ」
 と、小浜兵曹長が、おもしろそうに笑いました。
「どうです上官、機関銃をあびせかけてみましょうか」
「うん、機関銃の弾丸はうまくとどくまいよ、磁力砲が弾丸をはじきかえすだろうから」
「しかし、怪塔王が磁力砲をひねくりまわしているのを、こっちはじっと手をこまぬいてみているのはたまりませんね」
「そうではない。おれは、さっきから、本隊へしきりに通信しているんだ。怪塔王がいま磁力砲をあやつっているのが見えますといってやったら、司令はよろこばれて、もっとよく観て、くわしく知らせろといわれるのだ。当分じっとしていて、怪塔王のすることをみていることにしよう」
「ああそうですか、本隊では、磁力砲のはなしをよろこんでいますか。だが、じっとしているのはつらい。もっと手が長かったら、怪塔王のあのにくい顔を下からがぁんとつきあげてやりたいがなあ」
 青江三空曹は、磁力砲に錨が焼かれるのを、じっと見ているのを、たいへんつらがっています。
「おや上官、麻綱がぷすぷすくすぶりだしましたぞ」
「なんだ、麻綱がとうとう燃えだしたか」
 怪塔ロケットの金属壁が、とろとろとけているくらいですから、そのあたりの温度はたいへんあつくなって、やがて麻綱がぷすぷすとくすぶりだしたのです。これはいけないとみま
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