空中にうつくしい大きな曲線をえがいて、怪塔ロケットにせまりました。
怪塔ロケットは、わが偵察機ににらみすくめられたようになって、その銀いろの巨体を、ぶるぶるとふるわせました。
青江三空曹は、ここぞとたくみな操縦ぶりをみせて、怪塔ロケットのまわりを、上になり、下になりぐるぐるとまわるのでありました。
錨のついた長い麻縄は、だんだん輪のようにまるくなりました。
小浜兵曹長は、麻縄をありったけのばしました。
錨はだんだんあとにおくれて、やがて偵察機の正面に来ました。
麻綱をのばすと、その錨はまたさらに偵察機に近づきました。
「青江三空曹、もっと小さくまわれ。そして錨のさきに、こっちの麻綱をひっかけろ!」
と小浜兵曹長は叫びました。
「えっ、錨にこっちの麻綱をひっかけるのですか」
青江三空曹は、自分の耳をうたがうように聞きかえしました。
5
青江機があとにひっぱる錨づきの麻綱が、怪塔ロケットのまわりを環のようにとりまくと、小浜兵曹長は、錨のさきに、こっちの麻綱をひっかけろと命令したのです。
ものに動じない青江三空曹も、このかわった命令には驚きのいろをかくすことができませんでした。
「そうだ、錨のさきに、こっちの麻綱をひっかけるんだ。早くしろ。しかしうまくやれよ」
小浜兵曹長は、はげますようにいった。
「はい。やります」
青江三空曹は頼もしい語気で、言葉すくなに答えた。そして、操縦桿をさらに手前へひいたのでした。
機はぐっと傾いた。
錨はふわりと機首のところをとびこえて、うしろの方へながれました。
空中の投綱だ
なんというむずかしい曲技でしょう。
小浜兵曹長は、窓にかじりついて、窓外を夢中になってながめています。
錨をさきにつけた麻縄と、彼が機体からくりだしている麻縄とが二本ならんでみえる。
「うむ、もうすこしだ! おちついて、しっかり、そして大胆に!」
小浜兵曹長は、もうたまらなくなって、伝声管を通じて、操縦士の青江三空曹に声援です。
青江三空曹は、それにはこたえなかった。操縦桿をにぎる彼は、そのとき緊張の絶頂にあったのだ。彼の目も、耳も、心も、反射鏡に映る錨と麻綱のほかに、なにも見えず、聞えず、感じなかったのです。
錨と麻綱とはだんだん近づいて来ました。
「もうすこしだ。青江、しっかりやれ」
ぴしり!
空中で錨と綱とが、はげしくつきあたった。火花がはっきりみえたと思った。あっと思った瞬間、錨はぶうんとはねとばされました。
「ちぇーっ」
6
空中の曲技!
錨のさきに、こっちの綱がうまくかかったと思った刹那《せつな》に、綱は錨をぽーんとはじいてしまいました。
「しまった」
と、さけんだのは操縦の青江三空曹です。
「うむ、ざんねん」
と、呻いたのは同乗の小浜兵曹長です。
空中の曲技が、おしいところで失敗してしまいました。
「上官、やりなおしをいたします」
「うむ、おちついてやれ」
このとき弾《はじ》かれた錨は、せっかく空中につくった美しい輪をこわしてしまいました。
青江三空曹は、怪塔ロケットをおいながら、ふたたび綱を怪塔の胴のまわりに、ぐるぐると輪状につくりなおさねばなりませんでした。
小浜兵曹長は、ただ呻るばかりです。
そのうちに、ふたたび麻綱は錨をすなおにひきもどし、美しい輪が空中にえがかれました。
いくたびか、この綱の下をぬけ出そうとして、ついにぬけだすことができなかった怪塔ロケット!
ここぞと、青江三空曹は機体をひねって、こっちの綱を向こうの錨のそばにちかづけていきました。
たてつづけの宙がえりに、さすがの二勇士も、このときはげしい頭痛を感じるようになりました。これ以上、あまり宙がえりをつづけると、気がとおくなり、やがては死んでしまうおそれがあります。しかし青江三空曹は、あくまで精神力でもって、そうなるのをくいとめています。
「ああもうすこしだ」
と、小浜兵曹長が思わず口走った刹那、錨はうまく綱をひっかけました。青江三空曹のお手柄です。
綱は錨にひっかかったまま、するするとすべりましたので、綱の輪は小さくしぼられていきます。さあこれからどうなるのか。
遂に現る
1
錨にひっかかった綱は、するするとすべって、たくみに怪塔ロケットの胴をしめつけてしまいました。
綱はいま怪塔ロケットの舵《かじ》の上からぎゅっとおさえています。
青江機は、そのながい綱のさきにぶらさがっています。
「エンジン、とめ!」
と、小浜兵曹長は号令をかけました。
エンジンをとめろというのです。ここでエンジンをとめると、どういうことになるか。
とにかくおどろいたのは怪塔王です。
飛行機に追いこされ、それから先まわりされてロケ
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