しいので、結局青江三空曹もこの計画にしたがうことにしました。
「じゃあ頼むよ。このうえは、貴様の操縦術にたよるほかないのだ。しっかりやれ」
と小浜兵曹長がはげまします。
「だ、大丈夫です。私は、死んでもがんばるつもりなのです。さあどうか錨をおろしてください」
青江三空曹はりっぱにひきうけました。
そこで小浜兵曹長は、錨を先につけた綱を、そろそろと機体の外におろしはじめました。
2
天空たかく逃げのびようとする怪塔ロケットです!
逃がしてはなるものかと、青江機は猛追撃をしています。
偵察席にいる小浜兵曹長は、ありったけのちえをしぼって、錨のついた麻綱をまずおろしました。
麻綱はながくながくのびていきます。その先についている錨のおもさで、麻綱はぶらんぶらんとゆれています。そして錨はだんだんとはげしく振れていきます。
「おお、右旋回だ!」
小浜兵曹長が、伝声管の中にさけびますと、
「はい、右旋回!」
青江三空曹は舵《かじ》をひきました。すると飛行機は翼をかたむけるとみるまに、みごとに右へぐるりとまわっていきます。
怪塔ロケットのお先へまわったのです。
怪塔ロケットはまたスピードをおとしました。そしてやっとすれすれに、青江機のたらしている麻綱のそばをすりぬけました。
「はっ、はっ、はっ、怪塔ロケットもそろそろ困って来たようだ。こうなるとあぶなくて、スピードが出せないというのだろう。むりもない、もともと怪塔ロケットは、舵が半分ほど利かなくなっているのだからな」
さきに小浜兵曹長は、体あたり戦術でもって怪塔ロケットの舵を半分ほどこわしておきました。それからこっち怪塔ロケットは、思うようにまっすぐ飛べなくなっていました。まっすぐ飛ぼうと思うと、ぐるぐるまわりをしたり、下りようとすると、ロケットの首が上にあがったり、酔っぱらいが自動車を運転しているのとおなじです。これには怪塔王もどんなにか困っていました。
そこへ今、錨をぶらさげた麻綱がとんでもないときに鼻さきへぬっとあらわれるので、ますますロケットは飛びにくくなって来ました。スピードを落しておかないと、急に方向をかえることができません。
3
怪塔ロケットは、そろそろ目がまわりだしたように見えました。
しかし追撃中の小浜兵曹長は、まだまだそんなことで手をゆるめるつもりはありませんでした。
「おい、青江、いよいよこのへんで、貴様の高等飛行の手並を見せてもらうぜ」
「はい、それを待っておりました。かならず敵を征服いたします」
と青江三空曹は、はりきったこえで、返事をいたしました。
「うん、その調子でしっかりたのむぞ。では、おれが命令するとおりに操縦をしてみてくれ」
「はい、承知しました」
「では命令を発するぞ。――まず急上昇!」
「はい、急上昇!」
こえのおわらないうちに、青江機は空中に垂直に立ちました。エンジンははげしい爆音を立てます。機はぐんぐん上る!
「ああ、怪塔ロケットが右へにげだしたぞ。にがしてたまるものか。――宙がえり、急降下で右へ!」
青江機は空中に美しい輪をえがいて、くるりと一転しました。そして、そうするが早いか、たちまち機首を下にむけて、のろ牛をおそう鷲《わし》のように、猛烈なスピードでさっとまいおりるのでありました。
「うまいうまい。りっぱな手並だ、まるでおれの若いときのようだ。いや、おれの方が、もうちっと上手《じょうず》だったがね」
と、小浜兵曹長がいいました。操縦中の青江三空曹は、ほめられたのか、それともひやかされたのか、どっちであろうかと目玉をくるくる。
そのうちにも錨綱は、不思議なゆれかたをして、空中を大蛇のようにのたうちます。
おどろいたのは怪塔王です。あぶなくて、ロケットを飛ばしていられません。
繰縦をやっている三人の黒人を叱《しか》りつけ、やれもっと左へ避けろだの、やれもっと高くあがれだの、体中汗びっしょりになって号令をかけています。が、怪塔ロケットはだんだん空中にすくんで来ました。
4
怪塔ロケットが宙ぶらりんにすすみだしたと見て小浜兵曹長は、
「おお、今だ!」
と、さけんだのでありました。
なにが今だというのでありましょうか。
そのとき小浜兵曹長は、青江三空曹にむかって風変りな命令を発しました。
「おい、青江、怪塔ロケットの周囲を連続宙がえり!」
連続宙がえりとは、たいへんな命令です。しかも怪塔ロケットの周囲をぐるぐるまわれというのですから、これはなかなかむずかしい。このへんが、操縦士のうでまえの見せどころであります。
「怪塔ロケットの周囲を連続宙がえり、始めまぁす」
と、復唱するなり、青江三空曹は桿《かん》をぐっとひいた。すると、青江機はぐっと機首をあげるなり、
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