きなり三人の黒人の方をふりかえりざま、大喝一声《だいかついっせい》しました。
「こらっ、さっきから見ていると、お前たちはみな頭がどうかしているのじゃないか。いつもに似あわず、今日にかぎって、変なことばかりをしているじゃないか。なぜここにわしがいるのに、ぼんやり考えこんでいるのか。それとも、わしが二つにも見えるというのかね」
そういわれて三人の黒人はびっくりです。だって、怪塔王がいきなり変な事をいいだしたのですもの。
(わしが二つにも見えるか――などというけれど、たしかに二人の怪塔王がいたのだ。いやそれともやっぱり自分は、怪塔王のいうとおり、頭が変であるために怪塔王が二つに見えたのではあるまいか。そういえば、あのえらい御主人怪塔王が二人とあるはずがない。すると自分は、真昼に夢をみていたのかしら)
黒人は、めいめいそう思いました。すっかり怪塔王にかつがれてしまったようです。うまくいったとみるより怪塔王は、さらに声をはげまして、
「こらっ、さあさあ何をしている。お前たち、早く持場につかんか。さあ出発だぞ」
3
怪塔王が、いつもの調子でぽんぽんどなるので、これをきいていた黒人三人は、さっきまで二人の怪塔王をみていたことなんかどこかへ忘れてしまいました。
めいめいに口にこそ出しませんが、ひとりひとり心の中で、
(こいつはいけない。主人のおこるのもむりはないよ。おれは、昼間から夢をみたりしたんだもの)
というわけで、怪塔王にうまくごまかされてしまったとも気がつかず、号令にちぢみあがって円筒の中にひっこむと、怪塔をうごかす機械の前にぴったりとむきあいました。
「よいか。――次は飛行準備だ」
「はーい、飛行準備は出来ております」
黒人は、伝声管でもって返事をいたしました。
「よろしい。――ではいよいよ出発!」
「よーう」
と、黒人はかけごえして、使いなれた複雑な機械をあやつりはじめました。
ごぼごぼごぼごぼ。
海底によこたわった怪塔のお尻から、大きな白い泡がさかんにたちました。
ごとん、ごとごとん。
きりきりきりきり、きゅうん。
金属のすれあう音がして、怪塔はぐぐっ、ぐぐうっと動きはじめました。
機械の音は、刻一刻とやかましいひびきを立てはじめました。それとともに、怪塔の首がすうっと上にたち、やがていつもの怪塔と同じように、床は水平になり、壁はつっ立ちました。
ごぼ、ごぼん、しゅうっ。
怪音をあげて、怪塔はふかい海底から水面までをひとはしり! ついに海面に、その気味のわるい首をあらわしたかと思ったとたん、ぴゅうと空中高くまいあがりました。
4
めずらしや、海底からうかび出て、ふたたび空中高くまいあがった怪塔ロケット!
海底では、日がさしませんから、夜はもちろん、昼間もまっくらで、あたりの様子から時刻を知ることができません。
だが、こうして空中にとびだしてみると、あたりはいま、夜が明けはなれたばかりの朝まだきであることがわかりました。
朱盆《しゅぼん》のように大きくて赤い朝日が、その朝、ことにふかくたちこめた海上の朝霧のかなたに、ぼんやりと見えます。
霧は、怪塔王のために、まさに天のあたえためぐみだと、怪塔王は、じぶんでそう考えてよろこんだのです。
しかし、一体怪塔王に、天のめぐみなどがあってよいものでしょうか。
そうです。天のめぐみだとよろこんだのは、怪塔王の早合点《はやがてん》のようでありました。
たんたんたんたんたん。
どっどっどっどっどっ。
ううーっ、ううーっ、ぶりぶりぶり。
たちまち聞えるはげしい機関銃のひびき。そして間近にちかづくエンジンの爆音!
飛行機だ!
わが監視隊に属する偵察機だ!
なんという大胆な行動だろう。このふかい霧のなかをついて、どんどん怪塔の方へ近づいて来る。
「ややっ、また出たな。なんといううるさい飛行機だろう」
怪塔王は、にがにがしいといった顔をしました。
「正面から来るやつなら、幾台でも落してやるんだが、癪《しゃく》にさわることに、このごろ敵の飛行機のやつは、こっちの舵器のあたりがよわいことを知っているとみえ、そこのところばかり攻めて来るので、あぶなくてしようがない」
そういって怪塔王は、あらあらしく舌打をしました。
追跡急!
1
海底から浮かびあがって、爆発する心配はなくなった怪塔ロケットでありましたが、さて空中にとびあがってみますと、こんどは深い霧にまきこまれ、さらに待ちかまえていた監視飛行隊にみつけられ、ひどく急な追跡をうけたのであります。
「ちくしょう、ちくしょう!」
と、怪塔王は配電盤をのぞきながら、たいへん怒っています。
「あっ、あぶない。また飛行機が……」
配電盤には、四角に
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