ていたのです。それから先は、機関をどんなにうごかしてみても、びくとも艦《ふね》はゆるがず、そのうちに軍艦の底の割れ目から海水がはいってきて、大きな艦体は、舳《へさき》を上にして傾《かたむ》いてしまいました。
これが夜中の出来ごとなので、そのさわぎといったら大へんでありました。村の人々は軍艦淡路のふきならす非常汽笛に目をさまして、すぐさま、まっくらな浜べにかけつけたそうです。そのとき軍艦は探照灯をつけ、空にむけてしきりにうごかしていたといいます。
一彦とミチ子とは、ぐっすり眠っていて、朝になるまでそれを知らなかったのです。
2
一彦とミチ子は、昨夜の怪事件を知ると、驚きのあまり、朝御飯もたべないで浜べにかけつけました。
「あっ、あれが軍艦淡路だ。すごいなあ」
「あら、あんなに傾いているわ。兄さん、あの軍艦は沈みはしないかしら」
「さあ、どうだか。誰かに聞いてみようよ、ミチ子」
兄妹は、浜べにあつまった人たちの間をぬって、誰か事件にくわしい人はいないかしらとさがしまわりました。すると、そのときボートが浜べについて中から水兵さんが、どやどやと下りてきましたが、そのうちの一人が、警戒に来ているお巡《まわ》りさんのところへやってきて、話をはじめました。
「警官、藁《わら》むしろは集りそうですか」
「ここの村では、水兵さんが申し出られたほどは集りませんが、その半分ぐらいは集りそうです。のこりの半分は、いま方々へ人を出して集めていますから、心配はいりませんよ」
「そうですか。早くしてもらいたいですね。潮はこれからどんどん引くそうだから、軍艦はますますあぶなくなります」
「水兵さん、一体どうしてあんなことになったんです。航海長の失策ですか」
「いや、そんなことはない。全く不思議というよりほかはないのです。いつの間にか、あの大きな艦体が陸地へひきよせられていたというわけです。まるで磁石に吸いよせられた釘《くぎ》のようなわけですよ」
「変なことですねえ」
「変なことといえば、もっと変なことがあるんです」
「えっ、もっと変なことがあるんですか」
とお巡りさんは、びっくり顔色をかえて水兵さんの面《おもて》を見つめました。
「そうです。さらに変なことというのは、軍艦の檣《ほばしら》が――これは鋼鉄でできているんですよ。それが一部|熔《と》けて、飴《あめ》のように曲って
前へ
次へ
全176ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング