いるんです」
3
遭難軍艦の檣が、どうしたわけか飴のように曲っているという水兵さんの不思議そうな話に、一彦とミチ子が眼をあげて沖を見ると、なるほどそのとおり、後部の檣が、まん中から飴の棒を曲げたように曲っていました。
「風が吹いたわけでもないのにですねえ」
と、お巡りさんが水兵さんに話しかけますと、
「じょ、冗談じゃありませんよ、警官。あれは鋼鉄の柱ですから、風が吹いたくらいで曲るものですか」
「なるほど、それもそうですね。これはどうも訳がわからないことになった」
お巡りさんもとうとう匙《さじ》をなげだしてしまいました。
そのうちに、空の一方から飛行機の爆音が聞えてきたと思ううちに、南の方から六つの機影がぐんぐん近づいてきました。
「ああ、偵察機だ。勇ましいなあ」
と、一彦はもう大喜びです。
偵察機は、三機ずつ二組の編隊を作っていましたが、やがて傾いている軍艦淡路のま上までくると、ぐるぐる廻《まわ》りだしました。機上から空中写真をとっているのでありましょう。
それから暫《しばら》くすると、中の二機は機首をかえしてどんどんひきかえしていきました。
あとには四機の偵察機が、はなればなれになって、九十九里浜の上空を、いつまでもぶんぶんと飛びまわるのでありました。
「ははあ、上空からこのへん一帯を警戒しているのだよ」
「兄さん、たいへんなことになって来たわねえ」
ミチ子は目をまるくして、一彦の腕をしっかとおさえていました。
しかし、まだこの浜べのさわぎは、ほんの始りだったのです。おひるごろになると、どこから来たのか、駆逐艦《くちくかん》だの、変な形をした軍艦とも商船ともわからない船だのが、およそ十|隻《せき》ほども集ってきて、沖はなかなか賑《にぎ》やかになりました。
帆村探偵
1
さわぎはますます大きくなって、午後になると陸戦隊がボートにのって、浜べにつきました。そしてただちに警戒につきました。
沖合には、坐礁《ざしょう》した大戦艦淡路が傾いており、そのまわりには大小いろいろな軍艦がぐるっととりまき、空には尻尾《しっぽ》を赤く塗《ぬ》った海軍の偵察機が舞い、それを背景にして、浜べには陸戦隊が銃剣をきらめかして警戒をしているのです。
しずかなほんの漁村にすぎなかったこの海べの村は、一夜のうちにたちまち姿をかえ
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