りました。
「あっはっはっ、なにをいっているか。お前たちは、もうこの塔から出られないのだ。あきらめるがよい」
2
「なんといおうと、この塔からりっぱに出ていってみせるぞ」
帆村探偵は、鉄の檻のなかから、怪塔王をじっと睨《にら》みつけました。
「ほう、それは勇ましいことだ。じゃあ、まあよく考えてみるがいいさ。これからお前たちを、考えるのにはもってこいという場所へおくってやろう」
考えるのにはもってこいの場所?
それは一体どんなところなのでしょうか。
怪塔王は、にやりと笑うと、また寝台のところへ歩いていって、後向きになりました。
「あっ、わかった。あそこに秘密のボタンがあるのだ」
と一彦が叫びました。
「秘密のボタン――そうかもしれない」
と、帆村は檻につかまって、怪塔王の背中をじろじろみつめています。
秘密のボタンをおしたので、この檻が天井から下りて来たのでしょう。発射されたピストルの弾丸が空中でとまるのも、その秘密ボタンをおしたためでしょうか。さて今度、怪塔王はどんなボタンをおすつもりなのでしょうか。
「あっはっはっ」
と、寝台にとりついている怪塔王が、二人の方をむいて笑いました。
「なにを――」
と、帆村と一彦とが、睨みかえしました。
そのとき、二人の立っている床がごくんと揺れたかと思うと、ああら不思議、そのまますうっと下にさがりはじめました。まるでエレベーターで下りるような工合です。
「あっ、僕たちをどうするのだ」
と叫んだが、もうどうにもなりません。二人の立っている床は、どんどん下って、やがて十四五メートル下のまっくらな部屋へおりていって、止りました。どうやら、三階から一階へおりたらしいのです。
「あっ、止った」
「まっくらで、なにも見えない」
「手提電灯をつけてみよう」
帆村は、ポケットから手提電灯を出すと、かちりとスイッチをひねりました。
3
手提電灯は、ぱっと真暗の一階をてらしました。
「おじさん、ここはやっぱり一階だよ」
と一彦少年が叫びました。そうです、たしかに見覚えのある倉庫のような一階に違いありません。
帆村探偵は無言で、じっとあたりを見廻していました。
「帆村おじさん、この鉄の檻から出る工夫はないの」
「うむ、鉄の檻ではどうもならないね」
と、いいながら、探偵は鉄の檻が床についているあ
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