たりに手提電灯をさしつけてみていましたが、そのとき何を思ったか、一彦少年の腕をぎゅっと握りました。
「一彦君。大きな声を出しちゃいけないよ」
 と、まず注意をあたえてから、
「ほら、ここをごらん」
 と、帆村が指したところを見ると、鉄の檻が床から二十センチメートルばかり浮いているのです。
 一彦は、早くもこの意味をさとって、おどろきの声をだすまいと口に手をあてました。
「ほう、床に転がっているこの丸太ん棒が邪魔《じゃま》をしているから、檻が床までぴったり下らないのだ。これは天の助《たすけ》だ。一彦君、君は小さいから、この檻と床との隙間をくぐって檻から這出《はいだ》してごらん」
「ええ、僕、やってみる!」
 一彦は、すぐさま床に仰《あお》むけに寝ころぶと、頭の方からそっと檻の下を這出しました。あぶないことです。もしもこのとき丸太ん棒が鉄の檻から外れるようなことがあれば、鉄の檻の一番下にはまっている円形の太い台金でもって、一彦のやわらかい体はたちまち胴中から、ちょんぎられてしまうでありましょう。
 そんなことがあってはたいへんと、帆村は檻のなかにわずかにはいっている丸太ん棒の端《はし》を、力のあらんかぎりおさえていました。

     4

 きわどい冒険がつづきます。
 一彦は怪塔の鉄檻の下にわずかにあいた隙間をくぐって、死にものぐるいで外にぬけようとしています。
 うまく頭が向こうへ出ました。
 一彦はなおも一生懸命に、両足で床をうんとけりました。すると肩が檻の向こうへ出ました。つづいて手が出ました。
「もう大丈夫!」
 あとはするりと向こうへぬけ出ました。
「おじさん、抜けられたよ。おじさんも出られないかなあ」
 と、一彦は鉄格子につかまって、帆村の方をのぞきこみました。
 そのときです、鉄の檻が、がたんとうごきだしたのは。
 それはきっと一彦が檻を出るときに、うれしさのあまり檻を足で蹴《け》ったので、その震動が怪塔王の耳にはいり、鉄檻に隙間があってよく下りきらないのを知ったため、檻をむりにも下に下そうとしているのでありましょう。
 丸太ん棒がみしみし鳴りだしました。鉄の檻が力一杯丸太ん棒を圧《お》しつけ、これをくだこうとしているのです。
 しかし丸太ん棒です。上から圧すのは鉄の檻にしろ、そうかんたんにくだけるはずがありません。めきめきという音がするばかりで、一向
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