、この電話機を取上げました。
「もしもし、私は塩田大尉ですが、博士にお目にかかりたい急な用事があってまいりました」
と、大尉は相手に聞えているかいないかにかまわず、送話器へ声をふきこみました。
「……」
何の返事もありません。
「もしもし」
塩田大尉はさらに声を大きくして言いました。
「博士は留守なのですかねえ」
と一彦は大尉をみあげて言いました。
大尉は首をふりました。
「――なにしろ急用ですから、失礼して中にはいりますよ」
すると向こうから電話の声で返事がありました。たいへん低い声ですから、何のことかよくわかりません。
「何ですか、よくわかりませんよ。中へはいってから、改めてお話しねがいましょう」
と、大尉はすましたもので、玄関の扉をひらきました。
「さあ一彦君一しょに来たまえ」
大尉はずんずん上にあがっていきました。長いくらい廊下が、奥の方までつづいていましたが、そこをずんずんはいっていくのでありました。
(人の家へことわりなしに入って悪かないかなあ)
などと一彦は心配しましたが、大尉は平気です。もっとも家の中には誰一人姿をあらわしませんから怒る人もないのです。
「さあ、向こうのつきあたりが、博士の居間なんだ。万事あそこへいけばわかる」
4
大利根博士の部屋の前へ来ました。
くらい廊下のつきあたりに、重い扉がぴったりしまっています。
塩田大尉と一彦少年とは、その扉の前に立ちました。
「博士はいるでしょうか」
と、一彦は、そっと塩田大尉にたずねました。
「さあ、どうだか」
といいながら、大尉は扉をことこととノックしました。
部屋のなかからは、なんの答もありません。
大尉は、つづけてことことと扉を叩きました。けれども、扉の向こうからは、やはりなんの返事もありません。
「博士は留守なんですかねえ」
「ふうん、どうだかなあ」
塩田大尉は首をちょっとかしげました。
博士は有名な人ぎらいであることを考えてみますと、本当に留守なのかどうかわかりません。そこで大尉は決心して、扉の前で大声をはりあげました。
「ああ、もしもし、大利根博士!」
部屋の中は、あいかわらずしんかんとしています。
大尉は、さらに声をはげまして、
「ああもしもし、大利根博士! 私は塩田大尉です。急用ですからちょっとここをあけてください」
それでもまだ
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