村たちも博士のことばにしたがって、本艇へ引揚げていった。これがおたがいの顔の見おさめだろうと両艇員は別れ去るのがとてもつらかった。
なにごとも運命であったろう。帆村たち十名が本艇へたどりついて、テッド隊長に報告をはじめ、それがまだおわらないうちに、とつぜん千載一遇《せんざいいちぐう》の機会がやってきた。
猛烈な砲撃が天蓋にくわえられたけっか、ぽっかり穴があいたのである。暗黒な空が見えた。
「今だッ」
出航! テッド隊長は、出航命令をくだした。操縦員たちは極度に緊張した。
艇の繋索《けいさく》はたたれた。そして針路は、吹きとばされた天蓋のあとへ向けられた。
大危険である。砲撃はつづいているのだ。すこし間隔《かんかく》はおいてあるが、猛烈に撃ってくる。天蓋や構築物の破片や、砲弾そのものまでが頭上からばらばら落ちてくる。もしその一つが本艇の要所にあたれば、本艇は即時に飛ぶ力をうしなって、あわれな巨大な墓場と化さなくてはならない。
しかしそれをおそれていられないのだ。脱出はいまをおいてほかにないのだ。
全速前進! 僚艇に注意! テッド隊長以下の艇員は、ものすごい初速と加速度にたいして、歯をくいしばってたえていた。気が遠くなる。頭が割れるようだ。脱出に成功した。
脱出したというよりも、空間にほうりだされたといったほうが、その感じがでる。なにしろ一瞬のできごとだった。そしてそのあと、艇員たちは数十分間にわたって失心していた。やっと、ぼつぼつ気がついた者がでてきて、それから同僚を介抱《かいほう》した。しばらくは、何がどうなっているのやら、さっぱりわからなかった。やがて、思いがけない快報がもたらされた。それはほかでもない。今、本艇がただよっている位置から二百万キロばかりのところに、なつかしい地球の姿が見えるというのであった。艇員は喜びに気が変になりそうになった。
「もうひととびで、地球へもどれるんだ」ああ、意外にも、ガンマ星から脱出したところは、地球に間近いところであったのだ。燃料の心配も、いまはもうなかった。
艇員は、気がついて、ガンマ星とアドロ彗星《すいせい》の姿を天空にもとめた。ところが、ふしぎなことに、それらしいものは何にも見えなかった。どうしたのであろうか。テッド隊の宇宙艇九隻のうち、七隻はぶじに地球へ着陸した。他の二隻は、おしいことに脱出に失敗したらし
前へ
次へ
全120ページ中118ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング