の立場はぎゃくになったよ」
それからテッド隊長は、『宇宙の女王』号への放射能燃料の運搬を指図した。艇からえらばれた十名の運搬者のなかに、帆村荘六と三根夫のまじっていたことをしるしておく。この両者は志願して、その運搬員にくわわったわけである。作業は、はじまった。テッド隊長の胸は、いまにもはりさけんばかりに痛んだ。師サミユル博士に報恩《ほうおん》し、『宇宙の女王』号の乗組員たちに希望を持たせることにはなったが、しかしこの燃料運搬がおわるまでに、はたしてこのガンマ星がいままでどおり安全な状態をたもっているかどうか、それはたいへん疑わしいことであったからだ。
運搬作業のとちゅうで最悪の事態が起こったとしたらどうだろう。運搬に従事している二十名の同僚を失わなくてはならないのだ。そのなかには、愛すべき尊敬すべき十名の本艇員がいるのだ。三根夫少年もいる。帆村荘六もいる。――神よ、作業がおわるまで、かれらの身の上をまもりたまえ。サミユル博士は、驚いたことに、二十名の運搬員といっしょに、やはり燃料運搬にしたがっていた。博士の気持はよくわかる。燃料運搬作業は、その三分の一のところで中止するのやむなき事態にいたった。
それはアドロ彗星の砲撃がますますはげしくなり、ガンマ星の天蓋《てんがい》をぼンぼンと破壊しはじめたからであった。運搬員の頭上からは、破壊された天蓋や架橋《かきょう》の破片が火山弾《かざんだん》のようにばらばらと落ちてきて、危険このうえないことになった。
サミユル博士は長大息《ちょうたいそく》するとともに、そのあとのことを遂《つい》にあきらめた。
「運搬はやめる。隊員はそれぞれの艇へいそいで引揚げなさい」
「先生、いま運搬をやめては、『宇宙の女王』号はよていした燃料の三分の一くらいしか持っていないことになり、長い航空にはたえませんですよ。もっとがんばりましょう」
「ぼくも、やりますよ。まだ、大丈夫、やれますよ」
と帆村と三根夫とは、左右からサミユル博士を激励《げきれい》した。
「そういってくれるのはありがたい。が、わたしはいまやじぶんの運命にしたがうのです。運搬作業は、とりやめにします。あなたがた、はやくテッド君のところへ引揚げてください。そしてテッド君に、わたしが心から大きな感謝をささげていたと伝えてください」
博士の決意は、もうびくともゆるがなかった。そこで帆
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