ったのだ。本艇が持っているありとあらゆる爆発力をあつめて、あの天蓋にぶつけても、天蓋はけっして壊れないであろうという絶望的な計算がでたのである。
みんなは、がっかりした。絶望的計算に全力をふるったポオ助教授は、もちろんがっかり組のひとりであったが、彼はとつぜん立ちあがると、絶望に血走《ちばし》った目をみんなのうえに走らせて、「みなさん。わたしの計算はぜったいにまちがっていない。しかし、物事がわたしの計算どおりに実現するかどうか、それはわからないのだ。運命というものがある。機会というものがある。そういうものは、わたしの計算の中には、はいっていないのですぞ」と叫んだ。
帆村荘六が、やけに手をぱちぱちたたいた。それに釣りこまれたか、他の人たちも手をたたき、それからみんな顔をかがやかして、大きな声で笑った。
テッド隊長が立って、ポオ助教授とかたい握手をした。そして声を大きくして演説をした。
「おお、あなたは真の科学者である。あなたは我々を死の淵《ふち》からすくいだした。我々は最善をつくし、それから運命の命ずるところにしたがい、そしてもし絶好の機会がくればそれを必ずつかむことにしよう。前途に光明《こうみょう》は燃えているのだ。元気をだせ諸君」さて、このあとに何がくる。
出航用意
「出航用意!」テッド隊長は、思い切った命令をだした。出航するといっても、本艇は自由がきかないのである。また、目指していくべきあてもないのである。天蓋は、堅牢《けんろう》である。本艇を繋留塔《けいりゅうとう》にむすびつけている繋索《けいさく》は、ものすごく丈夫である。いったい出航用意をしてどうするというのだ。テッド隊長は、気がちがったのではなかろうか。
しかしテッド隊長は、気がちがっているのではなかった。かれは、じぶんだけで、一つの夢を持っていた。ぜっこうのチャンスの夢であった。まんいちその夢がほんとうになるならば、そのときは本艇はいつでも出航できるように準備ができていなくてはならないのだ。
さもなければ、あたらぜっこうのチャンスをとりにがしてしまうであろう。が、その夢が現実になる公算は、ほんとに万に一つの機会であった。いや、万に一つどころか、億に一つかも知れない。常識で考えると、いまは本艇やその乗組員の運命は絶望の状態にあるとしか思えないのであった。
それにもかかわらず、テッ
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