ド隊長は、『出航用意』を命令したのであった。
 乗組員たちは、この命令にせっして、目を丸くしない者はなかった。そして、それにつづいてかれらはこうふんのいろをあらわし、いつもとはちがって、年齢が五つも若返ったように元気づいた。
「うれしいね、出航用意だとさ」
「出航用意か。いつ聞いても、胸がおどるじゃないか。さあ、いこう」
「出航用意だぞ、出航用意だぞ」
 機関室は、火事場のようないそがしさだった。全員は、本当に出航する顔つきになって、小さいエンジン類からはじめて、だんだん大きなものを起動《きどう》していった。
 出航用意の命令は、本艇だけでなく、僚艇《りょうてい》八|隻《せき》にも伝達された。
 僚艇でも、みんな目を丸くし、そしてこうふんになげこまれ、それからみんないそがしく活動をはじめた。脱出不可能なことは、誰も知っていたが、なつかしい『出航用意』の号令は、なおかれらを立ちあがらせる力を持っていた。テッド隊長は、考えぬいたすえに、『宇宙の女王《クィーン》』号のサミユル博士に連絡をとることをめいじた。無電は、サミユル博士|邸《てい》を呼びだした。しかし、誰もでてこなかった。
 無電係が、それを報告してきたので、テッド隊長は、隊員ふたりをえらんで、博士邸へ走らせることにした。ロナルドとスミスとが、えらばれた。どっちも元気で、常識に富んだ隊員だった。ふたりは、この危険な使いに立つことをおそれげもなく引きうけ、そしてとなりの家へゆくほどの気軽さででかけた。もちろんふたりは、携帯《けいたい》無電機を背負って、ひつようなときに、すぐ本艇と連絡がとれるよう、用意をおこたらなかった。ふたりが出発したあとで、テッド隊長からこの話を聞いた帆村荘六は、
「あ、それなら、『宇宙の女王』号へ無電連絡をとってみてはどうでしょう」といった。
「あそこは、無電連絡がきかないのだ。そのことはきみも知っているはずだが……」
 と、隊長はいった。そのとおり『宇宙の女王』号は、本艇よりもずっときびしい取締りをガン人からうけていた。あとでわかったことだが、ガン人は、はじめ『宇宙の女王』号を手に入れると、たいへんめずらしがって、その構造の研究と、そして地球人類の能力の研究のために、『宇宙の女王』号のなかは、いつも大ぜいのガン人の学者たちでごったがえしていたのだ。そして乗組員たちは、艇から外へでることを許され
前へ 次へ
全120ページ中110ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング