てきました。そばへいってみると、大したものですよ。丈夫で、弾力《だんりょく》があって、厚いんです。あれにむかっていっても、小さな蠅《はえ》が蜘蛛《くも》の巣《す》にひっかかるようなものです」
「そうでもあろう。だが、われわれは、何としても小さな蠅の力で、その丈夫で弾力のある蜘蛛の巣をつき破る方法を考えださなくちゃならんのだ」
 そのとき三根夫は、ふと気がついて、
「隊長やみなさんは、このガン星に、いま非常事態が発生していることを知っているのですか」
 と隊長にたずねた。
「ああ、知っているとも。だから、いっそうきみの安否《あんぴ》を心配していたんだ。この星が、いまアドロ彗星に追いかけられているというのだろう」
「そうです。どうしてそれがわかりました」
「さっきから、とつぜん本艇の無電通信機が働きだして非常事態放送の電波を捕えたんだ。ふしぎなことだ。われわれが怪星ガンの捕虜になった頃から、無電機は、さっぱり働かなくなっていたんだがね」
「ふしぎですね」
「いろいろふしぎなことがある。いままでは通信がいっさいできなかった僚艇とも電波で通信ができるようになった。そればかりではない。『宇宙の女王《クィーン》』号の通信室とも通話ができるようになった」
「どうしたわけでしょうね」
「わけなんか、さっぱりわからん。とにかくわれわれは、この事態を利用しなくてはならない。きみが持ってかえってくれた資料によって、われわれはなんとしても脱出の方法を考えださなくてはならないのだ。諸君。すぐ仕事をはじめよう。きたまえ」
 テッド博士は、首脳部の連中を呼びあつめて司令室へいそいだ。
 そこでは、三根夫の撮影してきたトーキー映画の映写ができるように、幕が用意され、発声装置もつながれていた。一同が席につくとまもなく、帆村が反転現像《はんてんげんぞう》したフィルムを持って、この部屋へはいってきた。そのフィルムは、さっそく映写機にかけられた。そして三根夫が苦心して秘密撮影してきた怪星ガンの要所要所が一同のまえにくりひろげられていったのである。
 フィルムは、いくどもくりかえし映写された。そして首脳部の人々は、脱出方法について熱心な討論をつづけていった。だがその結論は、思わしくなかった。三根夫が撮影録音してきたフィルムによって、天蓋の堅牢《けんろう》さが、想像していたいじょうにすごいものであることがわか
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