くわたしどもの希望しますのは、みなさんは長途《ちょうと》のお疲れもあることとて、すべての心配と危惧《きぐ》をすててとうぶんはゆっくりとお好きなものをたべ、お気にいったところを散歩して、健康を回復していただきましょう。そのうえで、わたしたちはさらに新しいことをお話いたすでありましょう。とにかく、みなさんの生命はぜったいに安全なのでありますから、安心していただきます」
「なぜ、わしらを大切に扱ってくれるのかね。あとで請求書がくるんだろう。こわいね」
「あははは。なかなかきびしいおことばです。そうです。みなさんがじゅうぶんに元気になられたら、わたしどもはみなさんがたに、ぜひ相談にのっていただきたいことがあるのです。それはなんであるか。ただいまは申しません」
「やっぱり、そうだったか。丸々と太ってから、おまえの肉をたべさせろというのだろう」
「トミー。酔っていても、ことばをつつしみたまえ」テッド隊長が聞きかねて注意をした。かれもじつは、さっきからトミーとガンマ和尚の対話に熱心に耳をかたむけていたのだ。
「ああ、いいですとも。わしは何も気にしていませんから。さあさあ、みなさんどうぞ盃《さかずき》をおあげください。テッド隊員[#「テッド隊員」はママ]のご健康を祝します」それがきっかけで、宴会はまたもとのように大にぎやかになっていった。とにかくこの宴会は大成功のうちに幕をとじた。
その日いらい、隊員たちは誰も彼も元気をくわえたようだ。自由に散歩ができ、無料で飲んだり食べたりでき、音楽を聞いたり、ダンスを楽しむこともできた。
三根夫少年も、毎日のように町を散歩した。いつでも帆村といっしょに歩くことにしていたが、その日は帆村がテッド博士からよばれて、艇内で会議に列席するため外出ができないので、三根夫ひとりが町へでた。
「もしもし、三根夫さま」かれはうしろから呼ばれた。
誰だろうと思ってふりかえったが、誰もいない。しかしかれはもうこの頃は勘《かん》ができて、姿は見えなくても、そこにはぜんぜん誰もいないのか、ガン人がそこにいるのかを感じわけることができるようになっていた。
「ああ、そうか。きみはハイロ君ですね。サミユル博士のところにいるハイロ君でしょう」
「はっはっはっ。そうですよ。あなたのおいでを待っていたのです」
「どうかしましたか」
「じつは、わたしはおり入ってあなたにおねだ
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