りしたいものがあるんです。さっそく申しますが、先日お持ちになっていた白い小さい、目の赤いねずみですな、あれをわたしにゆずっていただけないでしょうか。お待ちください。あのようなめずらしい貴重な生物をば、ただでくださいとは申しません。それと交換に、あなたの欲しいと思っているものをさしあげます」
「ふーむ、あの南京《ナンキン》ねずみをねえ」
「あなたが大事にしていらっしゃるものであることは知っています。しかしこの国には、あんなめずらしい生物はいないのです。ぜひともどうぞ、かなえてくださいまし」
 三根夫としては、あんな南京ねずみなんでもなかった。いま百五十ぴきぐらいいるから、一ぴきや二ひきやるのはなんでもない。しかし、待てよ、ここが考えどころだ。
「ハイロ君、もしきみがほしいのなら、ぼくが目にかけて、きみたちの姿や顔が見える特殊の眼鏡《めがね》かなんかゆずってくれたまえ。それならあれをあげる」
「ははあ、そういう眼鏡ですか」
「ないのかね」
「いや、あることはあるのですが……」とハイロは困っていたが、やがて決心したように、
「よろしい、あす持ってきます。ねずみと引きかえにおわたしします」
 三根夫はそれを聞いて、鬼の首をとったようなよろこびを感じた。
 この南京ねずみと、変調眼鏡の交換は約束どおりに行なわれた。ハイロは籠にはいった南京ねずみを見てよろこびの声をあげたが、
「三根夫さま。この変調眼鏡をさしあげることはさしあげましたが、あなたさまだけでごらんくださいまし。もしそうでないと、わたしはひどい罰をうけなければなりません。どうぞぜったいに秘密に願います」
 そういってハイロは三根夫に一つの箱をわたした。
 三根夫はその箱をもって艇へかえると、じぶんの部屋にはいって、その箱をあけて見た。なるほどへんな形をした双眼鏡式のものがあらわれた。三根夫は、えびすさまのような顔になった。そしてさっそくその『変調眼鏡』をかけてみた。さて、いったい何が見えたろうか。


   奇妙なお面


 三根夫は、どきどき鳴る胸をおさえて変調眼鏡をかけてみた。
 まず、じぶんの部屋をぐるっと見まわした。
「よく見える。しかし、おなじことだ」
 眼鏡をかけても、かけないでも、じぶんの部屋のようすは、かわりがないようであった。バンドのついた椅子。有機ガラスをはめてある格子《こうし》形の戸棚。テレビジ
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