そうかといって、あまりスピードをあげる割合いを――このことを『加速度のあげ方』ともいう――その割合いをきゅうにすると、搭乗員の内臓によくないことが起こる。ことに脳がおしつけられてしまって、気が遠くなったり、仮死《かし》の状態となり、はげしいときにはそのままほんとうに死んでしまう。そういうことがあるから、あまり加速度をきゅうにあげることもできないのであった。
つまり、その中間の、ほどよい、そして能率のよいスピードのあげ方というものがある。それをまちがいなく正しく調整していくことが操縦員にとってまず第一番のたいせつな仕事であった。
「ああ、なんという壮烈なことだ。どうかこの十台の救援艇が、無事にもどってきてくれますように」
そういって、ひそかに神に祈りをあげる老紳士もいた。
「うまくいくだろうか。三十名十台だから、総員三百名だ。このうち何人が生きて帰ってくるだろうか」
心配する飛行家もいた。
「ああ、勇《いさ》ましい。あたしはなぜいっしょにゆけなかったんでしょう。エイリーンさん、アネットさん、ペテーさんはいってしまった。あたし、うらやましい」
ハンカチーフをふりながら、残念がるお嬢さんもいた。婦人の搭乗者もあると見える。
「どうかなあ。この救援は成功しまいとおもうよ。第一、宇宙はあまりに広いんだ。……それにね、去年の春あたりからこっちへ、ひんぴんとして行方不明の宇宙艇があるじゃないか。わしのにらんだところによると、宇宙のどこかに、兇悪《きょうあく》な宇宙の猛獣とでもいうべき奴がひそんでいて、みんなそれに喰われてしまうんだどおもうよ」
禿げ頭のスミス老人が杖をふりまわしながら、花束を持った四、五人の老婦人を相手にしゃべっている。
「まあ、宇宙の猛獣ですって。またスミスさんのホラ話がはじまったよ」
「なにがホラ話なもんか。わしはきのう、その宇宙の猛獣をつかう恐ろしい顔をした猛獣使いを見つけたんだ。わしは相手に知られないように、こっそりと、その恐ろしい奴のあとをつけていったが――ややッ」
スミス老人は、きゅうに話を切って、おどろきの声をあげた。そのときそばを、顔を緑色のスカーフでぐるぐる巻きにした目のすごい怪しい男が、松葉杖にすがりながら、通りすぎた。
自称《じしょう》金鉱主《きんこうぬし》
スミス老人は、おしゃべりを忘れてしまったかのように、口を
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