リ。其ノ一団ハ何ヲナセルヤ」
相手「予ノ今日マデノ観察ニヨレバ、明カニ軍事的施設ヲ作リツツアルモノノ如シ。
予ハ彼等ノ小屋ノ一室ニ予ノ案内人ト別ノ室ニ幽閉セラレタリ。予等ノ所持品ハ没収サレタリ。予ノ室ハ倉庫ノ一部ナリ。セメント樽《ダル》多シ。
予ノ室ノ入口ノ扉《ドア》ニ小サキ窓アリテ金網《カナアミ》ヲ張ル。武装セル監視人巡回シ来リ其ノ窓ヨリ予ヲ窺《ウカガ》ウ。
予ハ其ノ小窓ヨリ窓外ヲ見タルトコロ傾斜《ケイシャ》セル山腹《サンプク》ガ截《キ》リトラレアルヲ見タリ。其ノ前ニ小屋アリテ人々出入ス。雑品倉庫《ザッピンソウコ》ナルコトヲ知リ得タリ。
一昨日マデハ、リベットヲ打ツ「ニュウマチック」ノ音、「コンクリート」混合機ノ音響ヲ時々耳ニシタルモ、其後聞カズ。
飛行機ノプロペラノ如キ音、時々聴コユ。此ノ一団ノ総員《ソウイン》ハ、雑品倉庫ヨリ毎日ノ如ク運搬スル食料品ヨリ見テ四五十名カト思ワル。
貴局ハ左ノ事実ヲ其筋《ソノスジ》ニ急報シ、至急調査開始ヲ依頼サレタシ。前後ノ事情ヨリ推察《スイサツ》スルニ怪施設ハ大部分完備ニ向イタルモノノ如シ。
予ノ生命ハ只今ノトコロ安全ナリ。但シ此ノ通信発覚ノ暁《アカツキ》ハ直チニ殺サルベシ。予ノ一身上ノコトハ其筋ノ好意ニヨリテ、自宅ヘ一報ヲ乞ウ。予ハ決死ノ覚悟ヲ以テ通信ヲ行ワム。
当方通信用電源小サクシテ長時間ノ通信ニ耐エズ。詳細報ジタキモ已《ヤ》ムヲ得ズ。
貴局ヨリノ質問アリヤ。簡単ニ願ウ」
僕「直ニ其筋ヘ通報スベシ。安心アレ。質問アリ。貴局ノ送受信機ハ何処ヨリ手ニ入レタルヤ」
相手「予ガ携帯《ケイタイ》シ来リタルスーパーヘテロダインハ没収《ボッシュウ》セラレタリ。予ガ隣室ニ監禁セラレタル予ノ案内人ノ室ノ更ニ隣室ニシテ、同様物置ナル所ヘ一時|抛《ナ》ゲ入レラレタルヲ知リタリ。予ハ案内人ヲシテ夜暗天井裏伝イニ隣室ニ忍《シノ》ビ込《コ》ミ、其ノスーパーヲ盗《ヌス》マシメタリ。同夜苦心ノ末、コイル、コンデンサー、乾電池等ヲセット中ヨリ取外《トリハズ》シ、短波長送信機ヲ組立テント試ミタリ。材料ノ不足ニヨリテ意ノ如キ波長ノモノヲ作ルコトヲ得ザルコトヲ発見シタルトキハ絶望ノ[#「絶望ノ」は底本では「絶望の」]泪《ナミダ》ニ暮レタリ。サレド人事ヲツクシテ天命《テンメイ》ヲ俟《マ》タンコトヲ思イ、許シ得ル範囲ノ応急送信機及ビ受信機ヲ建造セルナリ。
当方ノ信号ハ衰減《スイゲン》セザルヤ」
僕「ヤヤ衰減シタルヨウニ思ウ。予ハ一切ヲ直チニ其筋ニ急報スベシ。次回ノ通信ハ約二時間後、スナワチ午前四時ニ行ウベシ。貴局ノ都合如何」
相手「応諾。当方ハ此後ノ通信ヲ倹約《ケンヤク》セザルベカラズ。電源ノ消耗《ショウモウ》ト、更ニ急報スベキ事件ノ発生ヲ予期スレバナリ」
僕「デハ御機嫌ヨウ。貴君ノ忍耐ト奮闘《フントウ》トヲ祈ル」
[#ここで字下げ終わり]
 僕は最後の符号を打ち終ると急いで立ち上った。壁にかけてある制服を下ろすと、手早《てばや》く之《これ》に着換えました。それから一散《いっさん》に家を飛び出して更けた真夜中の街路に走り出でました。火のように上気した僕の頬を夏の夜乍ら冷々《ひやひや》と夜気がうちあたるのを感じました。
 僕は我国を覘《ねら》っている敵国人が、我国の人跡《じんせき》稀《まれ》なる山中に立て籠《こも》っていると聞いてさえ驚かされたのに、彼等はどこから運搬したものか大仕掛の土木工事《どぼくこうじ》を行い、而も工事は既に終ったという説をセントー・ハヤオなる人物から報ぜられて全く昂奮《こうふん》してしまいました。軍事施設について智識《ちしき》のない僕でも、次に何事が計画されているか、実行されるかという事を朧気《おぼろげ》ながら推察することが出来ました。これこそわが大日本帝国《だいにほんていこく》の一大事である。そしてこの一大事を一般国民に知らせることの出来るのは今のところ自分を除いては一人もないという事を考えると僕は重大なる任務のために、身体がガタガタ震え出すのを、どうしても我慢が出来ませんでした。
 さて斯《こ》うして戸外《そと》に飛び出してはみたものの、第一番に何処に通報すべきであるか。一番手近な方法は、近所の交番へ訴《うった》え出ることでしたが、警官が簡単に納得して呉れるとも思われないし、それから先、警察署、警視庁、憲兵隊と階級的に軍事当局迄、通報されて行くであろう煩雑《はんざつ》さを考えると、交番へ訴え出ることを躊躇《ちゅうちょ》せずには居られませんでした。
 僕は決心して近所のタクシーを叩き起しました。それから自動車を長舟町の憲兵隊本部へ飛ばせました。自動車は物凄い唸《うな》りをたてて巨大なる建物の並ぶ真夜中の官庁街を駆《か》け抜《ぬ》けて行きました。
 軈て僕の乗った自動車は三十|哩《マイル》の最大速力を緩《ゆ
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