岸少尉は、相手をにらみすえた。
太々《ふてぶて》しい若者
「いや、どうも。びっくりしたとたんに、化《ばけ》の皮《かわ》がはがれるとは、われながら大失敗でありました。はははは」
と、半裸の若者は、頭をかいてわらう。びっくりした気色《けしき》はさらに見えない。見なおすと、この男、わかいながらなかなか太々しいところが見える。
だが、こっちは岸隊長以下、すこしも油断はしていなかった。中国人が、急に巻舌《まきじた》の東京弁でしゃべりだしたのには、ちょっとおどろいたが、わけのわからないうちに安心はしない。
「わらうのは後にしろ。貴様は何者か」
岸隊長も、こんどは日本語でどなりつけた。
「やあ、どうもわが海軍軍人の前でわらってすみませんでした」
と、かの若者は頭を下げ「私は四国の生れで竹見太郎八《たけみたろうはち》という者です。この貨物船平靖号の水夫《すいふ》をしています」
「ふん、竹見太郎八か、お前、なぜこんな中国船の水夫となってはたらいているのか」
「はい。私はなにも申上げられません。しかし、さっきも申しましたとおり、船長があなたにお目にかかりたいといっていますから、まげて
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