と隊長さんにお目にかかりたいと申して、このむこうの公室《こうしつ》でまっています」
「なに、向うの室へ、船長がこいというのか。なかなか無礼なことをいうね。用があれば、そっちがここへ出《で》て来《こ》いといえ」
「はい、それがちょっと出られない事情がありまして、ぜひにまげて御足労をおねがいしろとのことです」
「出て来られない事情というのは何か。それをいえ」
岸隊長は、まるで母国語《ぼこくご》のように、中国語でべらべらいいまくる。
そのとき、かの半裸の中国人は、一歩前に出た。ひそかに岸隊長にはなしをするつもりだったらしいが、隊長の部下がどうしてこれを見おとそうか、剣つき銃をもって、隊長の前に白刄のふすまをきずいた。
「とまれ!」
もう一歩隊長の方へよってみろ、そのときは芋ざしだぞというはげしいいきおいだ。
「あッ、危ねえ!」
かの半裸の中国人は、飛鳥《ひちょう》のように後へとびさがったが、そのとき臨検隊の一同は、おやという表情で、その中国人のかおをみつめた。それも道理だ。その中国人が、“あッ、危ねえ!”と、きゅうにあざやかな日本語をしゃべったからである。
「やっ、貴様は何者!」
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