あっては、わが駆逐艦もだまっているわけにはいかない。副砲は、一せいに怪船の方にむけられた。撃ち方はじめの号令が下れば、貨物船はたちまち蜂のすのようになって、撃沈せられるであろう。雨か風か、わが乗組員は唇をきッとむすんで、怪船から眼をはなさない。
それがきいたのか、怪船はにわかに速力をおとした。それとともに、甲板のものかげから、ねずみのように船員たちがかおを出しては、また引っこめる。
岸《きし》少尉を指揮官とする臨検隊《りんけんたい》が、ボートにうちのって、怪貨物船に近づいていった。むこうの方でも、もう観念したものと見え、舷側《げんそく》から一本の繋梯子《けいはしご》がつり下げられた。わがボートはたくみにその下によった。
岸少尉を先頭に、臨検隊員は、怪船の甲板上におどりあがった。
「帝国海軍は、作戦上の必要により、ここに本船を臨検する」
中国語に堪能な岸隊長は、船員たちのかおをぐっとにらみつけながら、流暢《りゅうちょう》な言葉で、臨検の挨拶をのべた。
そのとき、甲板にぞろぞろ出て来た船員たちの中から、半裸の中国人が一人、前にでて、
「臨検はどうぞ御勝手に。その前に、船長がちょっ
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