、足をかけた。
丸本が、その後につづいた。
そうして、一同は、大急ぎで縄梯子をおりて、ボートにうちのった。
「漕《こ》げ!」
事務長は、舵《かじ》をひきながら、命令した。
「竹見の奴は、あのままでいいのですか」
と、一人の水夫が聞いた。
「うむ――」
と、事務長は、答えにつまった。
「仕方がないじゃないか。それとも、お前に智恵でもあるか」
これは丸本の言葉だった。
水夫は、だまってしまった。
ボートは、だんだんとノーマ号からはなれていく。事務長は、舵をとりながら、ノーマ号の船上に、脱走水夫竹見のすがたをもとめたが、どこにいるのか、さっぱり分らなかった。ただそこには、ノーマ号の水夫たちが、おもいおもいに、こっちを馬鹿にしきったかおで、見おくっていた。
まったくのところ、馬鹿にされたようなこのボート派遣であった。
さて竹見は、一体どうしたのであろうか。彼は、前から退船の意志をもっていた。その理由は、虎船長に具申《ぐしん》したたびに、後にしろとかたづけられてしまったが、彼の真意は、駆逐艦松風の臨検隊員をむかえて、ああ自分も志願して、天晴れ水兵さんになって、軍艦に乗組み、正
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