のか知らないが、はて、あの事務長め、いつからこんなに気がきくようになったか」
 と、ひょいと手を出すところを、丸本がまっていましたとばかり、麻紐の輪をかけてしまった。
「あっ、おれをどうするのか」
「わるくおもうな、おとなしくしろい。お前を縛ってつれもどれと、虎船長の命令だ」
 竹見は、しばらく目をぱちぱちしていたが、
「いやだい。あんな船へ、だれがかえるものか。お前、おれを売ったな」
「売ったなどと、人聞きのわるいことをいうな。これもお前のためだ。わしは飯《めし》も酒も……」
「いうな、うら切りお爺《じい》め! お前なんぞにふんづかまってたまるかい」
 といってはねのけようとする。そのときばたばたとかけてきたのは、待機中の事務長をはじめ派遣隊の連中だった。この連中にそうがかりになっては、大力の竹見といえどもどうにもならない。
「おーい、ハルク、だまってみていないで、おれをたすけてくれ。おれが捕って本船へつれもどられると、死刑になっちまうんだ」
 それを聞くと、ハルクはウィンチの下からのっそり前に出てきた。彼は、太い筋の入った両腕を、ゆみのようにはって、竹見の加勢をすると見せた。
「よ
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