うものはくい、のむものはのむ囚人なんて聞いたことがないが……仕方がない、おれが虎船長にとりなすから、はやくお前はかかってくれ。おれたちはこっちで、おとなしく控《ひか》えている、しかし加勢をしろと合図《あいず》をすれば、すぐとびかかるから」
「ようがす。じゃあ、いまの約束は、男と男との約束ですぜ。まちがいなしですぜ」
「うん、くどくいわなくてもいい。まちがいなしだ」
 ノルマン船長を前にして、二人は気がねをしながらも、早口の相談一決!
 そこで丸本は、ノーマ号のとも[#「とも」に傍点]の方へ、のこのことでかけていった。それと入れかえに、事務長は、部下を彼のかたわらへよびよせて、いつでも丸本に加勢のできるように用意をした。
 丸本は、どんな計略をもっているのであろうか。彼の歩いていく後から見ると、いつの間にか麻紐《あさひも》で輪をこしらえて、かくし持っている。
「おい竹……おい、竹」
 丸本に呼ばれて、竹見は知らぬが仏で、安心しきってノーマ号の船員の間をかきわけ、前へ出てくる。
「おい竹よ。いま事務長さんから特別手当が出た。ほら、わたすよ。手を出せ」
「なんだ。特別手当だって、いくらくれる
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