せよせ、ハルク」
他の船員たちが忠告した。しかしハルクは缶詰をもらったおれいの分だけ、力を出すつもりであった。
平靖号の船員対ハルクの乱闘のまくは、今にもノーマ号の甲板の上に切っておとされそうになった。
そのとき竹見は、ハルクの後へ退《さが》っていたが、睨《にら》み合いの相手丸本をいつになくきたない言葉でののしり、
「やい、うら切り者よ。これが受けられるなら受けてみろ」
というなり、竹見の掌《てのひら》からぴゅーんといきおいよく、一挺のナイフが丸本の方へとんでいった。竹見のなげナイフ。丸本のとめナイフ――といえば、平靖号の名物の一つだ。どっちも神技というべきわざをもっている。だが今は曲技《きょくぎ》くらべではない。丸本は、竹見が自分に殺意を持っていると見て、大立腹《だいりっぷく》だ。ぴゅーととんでくるナイフを、ぴたりと片手でうけとめ、ただちに竹見の心臓をねらってなげかえそうとしたが、そのとき妙な手触《てざわ》りを感じた。見ると、ナイフの柄《え》に、シャツをひきちぎったような布ぎれがむすんであった。
「おや!」
と叫んだ、丸本はその布ぎれに、なにか字が書いてあるのに気がついた。
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