「な、なんです。おかしいというのは……」
 一等運転士が船長の顔をみた。
「あれみろ」と船長は、ボートの方をゆびさして「ノーマ号の上にのぼった奴は三名、ボートには、五名のこっているじゃないか。合計して八名。どうもへんだ」
「ははア」
「ははアじゃないよ。君もぼんやりしとるじゃないか。いまボートにのって出懸《でか》けたのは、事務長と六名の漕手《こぎて》だから、みんなで七名だ。ところが今見ると、いつの間にやら八名になっている」
「ははア、するといつの間にかどっかで一名ふえたようですな。これはどうもふしぎだ」
 と、一等運転士は、口では愕《おどろ》いているが、態度では、そんなに愕いていない。彼はすでに、なにごとかをよき[#「よき」に傍点]していたようだ。
「ああッ、彼奴だ」と船長が大きなこえを出した。「竹見の奴、いつの間にか、本船をぬけだして、ノーマ号の甲板《かんぱん》に立っていやがる。あいつ、どうも仕様がないやつだなあ」
「えっ、やっぱり竹見でしたか」
「うぬ、船長の命令を聞かないで、わが隊のとうせいをみだすやつは、もうゆるしておけない。かえってきたら、おしいやつだが、ぶったぎってしまう」
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