虎船長はついに激怒してしまった。
その当人、竹見太郎八は、悠々とノーマ号の甲板をぶらぶらと歩いている。事務長が、ノーマ号の高級船員を相手に、強硬に主張をつっぱっているには、一向おかまいなしで、むこうの水夫をつかまえて、手真似ではなしをしている。
「どうだい。これは胡瓜《きゅうり》の缶詰だ。ほら、ここに胡瓜のえが描いてあるだろう。欲しけりゃ、お前たちに呉れてやらねえこともないぜ、あははは」
集ってきたノーマ号の水夫たちは、竹見の顔色をうかがいながら、ごくりと咽喉《のど》をならした。
「われわれは、その缶詰が欲しい。そのかわり、汝《なんじ》はなにをほっするか」
と、むこうも手真似だ。
「そうだねえ――」
と、竹見はいって、ポケットから煙草《たばこ》を一本だして口にくわえ、ぱっと燐寸《マッチ》をつけた。
すると、ノーマ号の船員たちは、一せいに呀《あ》っとさけんで、真青になった。
なぜ彼等は、青くなったのであろうか。
煙草《たばこ》をなぜ嫌う?
ノーマ号の船員の一人が、水夫竹見のそばへとびこんできたと思うと、いきなり手をのばして、竹見の口から、火のついた煙草をも
前へ
次へ
全133ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング