はなしがあるものだねえ」
これを聞くと、虎船長は、目を白黒。おもわず両手で椅子からとび下りようとしたが、結局それをあきらめて、
「ふふン、ふふふふ。ふふふふ」
と、妙なわらい方をした。隊員一同も、わらいもできず、くすぐったいかおをして唇をかんでいる。臨検隊員は、少尉の言葉のいみをやっと諒解して、ものめずらしげに一同のかおを端から端へいくどもじろじろとながめやる。向うの一団は、いよいよ顔のやり場にこまっている様子だ。
そのとき岸少尉は、きッと形を改め、荘重《そうちょう》なこえで、
「臨検は、これで終了した。なお、おわりに四十何人かの生ける亡者どのの健康をしゅくし、そしてその成功をいのってやまぬ。おわり」
そういって少尉は、隊員をひきつれ、さっさと公室を出ていった。
少尉たちの靴音が甲板へきえても、虎船長はじめ公室の一同は、その場を石のようにうごかなかった。どこからか、鳴咽《おえつ》のこえがもれた。するとあっちでもこっちでも、すすりなきのこえが起った。拳でなみだをはらっている者もある。感激のなみだだ!
生ける屍《しかばね》となって、ひめられた或る使命のために壮途につこうという虎
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