船長以下は、はからずも臨検の海軍軍人からげきれいの言葉をうけ、感激のなみだは、あとからあとへと湧きいでて尽きなかったものだ。
「おい、おおくりしよう。わしを抱いてつれていけ」
虎船長がさけんだ。
船員たちは、へんじをするよりもはやく、脚のない船長を両脇からいだきあげ、甲板へつれていった。そのとき臨検隊長岸少尉は、舷側におろされた縄梯子《なわばしご》を今手をかけて下りようとしたところだったが、虎船長があらわれたと知って、つかつかと後へ戻り、無言のまましっかとその手をにぎった。そのときである。副隊長の兵曹が、
「あっ、岸隊長。本艦から至急帰還せよとの信号です。別な船が一せき、南方にあらわれました」と、こえをかけた。
このとき平靖号が、はからずも一つの大失敗をやったことが、後に至って思いだされることとなったが、まだだれも気がつかない。
ノールウェーの汽船
「あっはっはっ。さすがの海軍さんも、この平靖号にあきれてかえったようだな」
例の大々《ふてぶて》しい水夫の竹見太郎八は、甲板《かんぱん》のうえにはらをゆすぶってからからとわらう。
「ちえっ、自分のことをたなにあげて、な
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