うはなしを貴公は聞いたことがないか。なんのためのひめたる団体葬儀であろうか。仏の数が五十人あまり、参会者もまた同数の五十人あまりだという。一体だれの葬儀なのであろうか」
 岸少尉のかたるうちに、途中で一度、虎船長は、はっと思った様子だが、少尉がかたりおわるや、からからとうち笑って、
「はっはっはっはっ。世間には、どうもまぎれやすいはなしがあるものですな。両脚のない人間も世間には何百人といるんですぞ。団体葬儀だなんて、それは誰かの早合点《はやがってん》でありましょう」
 と、少尉のいうことを盛んにうちけす。
「はっはっはっ」と、こんどは岸少尉がうちわらって
「こうやって見まわすと、この船の乗組員たちは、どういうものかそろいもそろって、頭の天頂《てっぺん》の附近に二銭銅貨大の禿《はげ》――禿ではない、毛が生えそろわなくてみじかいのだ、それが揃いも揃って目につく。第一貴公のあたまにも、妙なところに山火事のあとみたいなものがあるではないか。さっきいった長崎の禅寺へ、五十人ほどの参会者がそろいもそろって毛髪をそって、納めていったそうだが、ずいぶん世間には、こまかいところまでつじつまのあう不思議な
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