がけない宝の山をほりあてたように思った。これなら、彼のあこがれている冒険味百パーセントの世界だ。彼は、当分この船で、スリルを満喫《まんきつ》したいとかんがえた。
 それだけではない、竹見をしてこのノーマ号に停まらせた理由があった。
 それは外でもない。この切迫した世界情勢の下において、香港《ホンコン》の南方を、変な国籍の船が火薬を満載して、うろうろしているなんて、どうもただ事ではないとおもったからである。
(ふむ、この火薬船が、どこでなにをやるつもりなのか、これは日本人としてうっかりしていられないぞ!)
 そうおもった彼は、得《え》たりや応《おう》と、ノーマ号でがんばることに決めてしまったのである。ノーマ号が、これからなにをするか、それを監視してやろう。これはきっとおもしろいことになるぞと、ほくそ笑《え》んだのである。
 巨人ハルクを、いちはやく味方につけたことは、竹見のはやわざであった。竹見は、ハルクさえ味方につけておけば、あとはこの船に停《とどま》ることなんて、わけはないものとかんがえていた。なにしろ、中国人水夫はよく働くことは、世界中に知れていることであるから、ハルクの口ぞえで、簡単に船長ノルマンにとりなしてもらえるものと決めていた。
 ところが、事実は、そうかんたんには、いかなかったのである。“死に神”という綽名《あだな》のあるこの秘密の火薬船の船長ノルマンだった。これが一通りや二通りでいくような、そんな他愛のない船長とは、船長がちがうのであった。
「おい、ちょっと、ここへ出てこい!」
 船長ノルマンは、船橋のうえから、甲板へこえかけた。これもちょっとした中国語をつかう。
「へえ、――」
 竹見は、わざと頭脳のにぶそうな声で、返事をした。
「へえじゃないぞ。いそいで、ここへ上ってこい」
 船長の語気は、一語ごとにあらくなっていく。
(船長め、どうしたのかナ)
 竹見は、白刄《はくじん》で頸《くび》すじをなでられたような気味のわるさをかんじた。
「へえ、ただ今」
 とこたえて、竹見は、ハルクに、ちくりと目配《めくば》せした。
 ハルクは、無言のままあごをしゃくった。
(船長のいうとおり、船橋《せんきょう》へのぼれ)
 といっているのである。
 竹見は、にやッとわらって、いそぎ足で、昇降段《しょうこうだん》をのぼった。
 下から、ほッほッという嘆声《たんせい》が
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