ルに出るつもりだよ」
 ノルマン船長は、たいへんおちついた紳士のように見えた。おそろしくやせぎすで、大きな両眼は、日よけの色眼鏡によって遮蔽《しゃへい》されてあった。
「貴船は貨物船らしいが、なにをつんでおられるのですか」
「鉱石である」
 鉱石である――という返事が、ばかにはやくとびだした。まるでさっきからこれをきかれることを予想して、すぐ出せるように用意しておいた返事のように聞えた。
「鉱石というと、どんな種類の鉱石ですか」
 ノルマン船長のくちびるが、ぎゅッとまがった。
「もう用事はすんだのだ。いそいで帰りたまえ」
 ノルマン船長は、はじめて叱咤《しった》するようにさけんだ。彼の語尾は、かすかにふるえおびていた。
 事務長の質問が、ノルマンの気にさわったらしい。
「ねえ、事務長」
 そのとき、事務長のうしろからこえをかけた者がある。それは一緒にノーマ号へのりつけた一行の中の一名、丸本という水夫だった。
「なんだ」
「本船からの信号でさあ。はやくかえってこいといってますぜ」
 事務長は、うむとくびをふって、
「ああ、いますぐかえると、手旗信号で返事をしてくれ」
「ねえ、事務長」
「なんだ。まだなにかあるのか」
「へえ、もう一つ、厄介《やっかい》なことをいってきました。虎船長から、じきじきの命令でさあ」
 といって、常日ごろ、ばかに年寄りじみたことをいうので、“お爺《じい》”と綽名《あだな》のある丸本水夫だが、すこし当惑《とうわく》の色が見える。
「なんだ、やっかいなことというのは」
「ほら、あの竹《たけ》のことでさあ。さっきわれわれ一行の中に紛《まぎ》れこんでいましたね。彼奴はカンバスの下に野菜と一緒になってかくれていたんですよ。ところが虎船長、大の御立腹《ごりっぷく》ですわい。いまも船からの信号で、竹の手足をしばってつれもどれとの厳命《げんめい》ですぜ。ようがすか」
「ふむ、そうか。竹見……いや竹の手足をしばってつれもどれと、船長の命令か。無理もない、船長の許可なくして船をぬけだすことは、一番の重罪だからな」
「じゃあ、やりますかね」
「なにを?」
「なにをって、竹の手足を縛《しば》ってつれてかえるかということです」
「もちろんだ。なぜそんなことをきくのか」
「だって、彼奴は大力があるうえに、猿のように、はしっこいのですからね。こっちがつかまえると感づくと、こ
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