、僕のこうと思った人間は、必ず連れて来て見せる。ここに居られる一宮大将においでを願ったのも、この火葬国建設の指揮を願うのに最も適任者だと思ったからだ。大将はすっかり共鳴されて、私財の全部をわが火葬国のために投ぜられたのだ」
「するとここは一体|何処《どこ》なのだ。日本ではないのだネ」
「そうだ。小笠原群島より、もっと南の方にある無人島なのだ」
「僕の露子はどうした。早く逢わせて呉れ給え」
「露子さんか」
 と鼠谷は一寸《ちょっと》困ったような顔付をした。
「露子さんに逢わせてもいいが、その前に、君から誓いを聞かねばならぬ」
「誓いとは?」
「この火葬国の住民となって、文芸省を担任して貰いたいのだ」
「文芸省?」
「そうだ。君の文芸的素養をもって、この火葬国に文芸を興《おこ》して貰いたい」
「文芸を興せというのかい」
 文芸ということを聞いた八十助は愕然として吾《われ》に帰った。そうだ、八十助の原稿は常に売れなくても彼の生命は文芸にあったのである。しかしその文芸は、あくまであの喧騒を極めた巷《ちまた》の間から拾い上げてこそ情熱的な味があるのであった。理想郷とは云え、こんな無人島から拾い上
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