火葬国風景
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)甲野八十助《こうのやそすけ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)療養|叶《かな》わず

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)不審のかぶり[#「かぶり」に傍点]を振った。
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   甲野八十助《こうのやそすけ》


「はアて、――」
 と探偵小説家の甲野八十助は、夜店の人混みの中で、不審のかぶり[#「かぶり」に傍点]を振った。
 実は、この甲野八十助は探偵小説家に籍を置いてはいるものの、一向に栄《は》えない万年新進作家だった。およそ小説を書くにはタネが要《い》った。殊《こと》に探偵小説と来ては、タネなしに書けるものではなかった。ところで彼は或る雑誌社から一つの仕事を頼まれているのであるが、彼の貧弱な頭脳の中には、当時タネらしいものが一つも在庫していなかった。逆さに振ってものみ[#「のみ」に傍点]一匹出てこないという有様だった。苦しまぎれに、彼はいつもの手で、フラリと新宿の夜店街へ彷徨《さまよ》いいでた。いつだったか彼はその夜店街で、素晴らしいタネを拾った経験
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