なきずな[#「きずな」に傍点]を断つことが出来る。もう借金とりも来なければ、大勢の子供の面倒を見なくてもよいし、年寄りになれば、老いぼれと蔑《さげす》まれなくてもいい。鬼籍に入った上で、本当の生命の残りを、極めて自由に有意義に使うなら、こんな愉快なことは、無かろうじゃないか。――それがそもそもこの火葬国の起源であるというわけだ」
鼠谷仙四郎の醜怪な頬には、ぽッと紅の色がさし昇って来た。
白煙に還る
鼠谷仙四郎の饒舌《じょうぜつ》はつづく。
「僕は花山火葬場に長く勤めているうちに、火葬炉に特別の仕掛けを作ることを考え出した。早く云えばインチキ火葬だ。誰でも棺桶を抛り込んで封印をしてしまえば、それで安心をする。しかし封印をしたのは表口だけのことだ。封印をしてないところが上下左右と奥との五つの壁だ。一見それは耐火煉瓦《たいかれんが》なぞで築きあげ、行き止まりらしく見える。誰一人として、あの五つの壁を仔細に検《しら》べようと[#「検《しら》べようと」は底本では「検《しら》べとようと」]思った者はない。僕はそこを覘《ねら》い、一旦封印をして表口を閉じた上で、側方の壁から特設の冷
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