いるのに思い出せない。それは非常に肥えたあから[#「あから」に傍点]顔の巨漢で、鼻の下には十センチもあろうという白い美髯《びぜん》をたくわえていた。
室内は、どういうものか、天井も壁紙も、それから室内の調度まで、鼠《ねずみ》がかったグリーン色に塗りつぶされてあった。そして一方の壁の真ン中には、大きな硝子《ガラス》窓が開いていた。その窓は大分高いところについているものらしく、そこに見える外の風景には、広々とした海原が見渡された。そして陸地は焦げた狐色をしていた。海に臨《のぞ》んでいるところは、断崖絶壁らしくストンと切り立っていた。その陸地の一部に大きな建物の一部が見えた。それがわれわれの普段見慣れたものと全く違い、直線で囲まれた真四角いものではなく、すべて曲線で囲まれていたのであった。又その形が何とも云えない奇妙なもので、一目見てゾッと寒気を催したほどだった。それに、建物の色が、やはり狐色で、塔のような形の先端は血のように紅く彩られていた。それがまた不思議な力で、八十助の心臓に怪しき鼓動を与えたものである。
(これア一体、どこへ来たのだろう?)
どうも日本とは思われない。と云って、そ
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