喧騒の中をくぐりぬけて、最後に彼の棺桶は、たいへん静かな一室に入れられた。
そのとき、またボソボソ云う話声が、棺桶のそばに近づいた。
「じゃいよいよ出すかネ」
「うん、出し給え」
「では一宮先生、とりかかってよろしゅうございますか」
「うむ。始めイ……」
ゴソリゴソリと綱らしいものを解く音、それからカンカンと釘をぬくらしい音が続いて起った。いよいよ棺桶から出る時が来たのだ。さていかなる場所へ着いたのかしら。それにしても一宮先生とは、どこかで聞いた名前だと、八十助はしきりに棺の中で首を振った。
火葬国
八十助は、棺桶――果してそれは棺桶だった――の蓋を開かれたときの、あの奇妙なる気分と、そして驚愕とを一生涯忘れることはあるまいと思った。だが、それにも増して、奇怪を極めたのは、棺の外の風景だった。
そこには数人の男女が立っていた。その中で、顔の見知り越しな男が二人あった。一人は云わずと知れた鼠谷仙四郎だった。彼をここまで連れこんだ彼のカマキリのような怪人だった。そしてもう一人は?
(どこかで見た顔だ)
と八十助は咄嗟《とっさ》に考え出そうと努めたけれど、そこまで出て
前へ
次へ
全41ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング