厳《いか》めしい正装の将軍の写真だった。その黒枠を見たとき、彼は電光の如《ごと》く、さっきの奇妙な男の正体を掴んだのだった。
「うん、彼奴《あいつ》だッ。――」
そう叫んだ彼は、不思議にも、叫び終ると共に、なぜかサッと顔色を変えた。何故何故《なぜなぜ》?
鼠谷仙四郎《ねずみやせんしろう》
「そうだ、彼奴だ。彼奴に違いない!」
螳螂男《かまきりおとこ》への古い記憶が電光のようにサッと脳裏に映じた。黒枠写真を見たときに、どうして彼奴のことを思い出したのであろうか。それはいわゆる第六感というものであろうが、不思議なこととて気になった。しかし後日になってその不思議が解ける日がやってきたとき、八十助は呼吸《いき》の止まるような驚愕を経験しなければならなかったのである。
「そうだ、彼奴は姿こそ変り果てているが、鼠谷仙四郎に違いない!」
鼠谷仙四郎――という名前を口のなかで繰返していると、八十助は小学校へ上ったばかりのあの物珍らしさに満ちた時代を思い出す。木の香新しい、表面がツルツル光っている机の前に始めて座った時、その隣りに並んでいるオズオズした少年が鼠谷仙四郎君だった。そのこ
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