シピシ痛む。彼は手を痛む額の方へ伸ばした。そのとき思いがけなくも、伸ばした手が胸より少し高いところで何か固いものにぶつかり、ゴトリと響を立てた。
 鼻をつままれても判らぬ暗闇の中に、ゴトリと手の先に当ったものは、一体何だったであろうか。
 ゴトン、ゴトン。
(ム。――これは板らしい!)
 八十助は、ゴトリと手先に触れたものを、板と感じた。板なればどこにある板であろうか。彼は手首を真直に立てて、上の方をさぐった。だが何にも触れない。こんどは腰をすこし浮かしてみた。そして手首をまた動かしてみた。果然なにか手先に触れた。
 ゴトン、ゴトン。
(あッ、――上も板だ)
 横も板、上も板、下も板らしい。足先で裾の方をさぐってみると、これも板、それなれば頭の上の方も板に違いない。するとこれは一体どんなところへ来ているのだろうか。四方八方板で囲まれたところといえば……。
「おお、そうだッ。――」
 八十助の心臓は、早鐘のように鳴りだした。
「これは棺桶の中だ。棺桶の中に違いない!」
 彼の胸には、急に千貫もあろうという大石を載せられたように感じた。棺桶の中に入れられている。いつの間に入れられたのか。彼
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